セメント産業のパラドックス

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モンゴルのセメント製造業界では、経済的な驚くべきパラドックス(矛盾)が生じている。それは、2025年5月2日にウランバートル市でモンゴルのセメント製造業者協会が初めて開催した「セメント・エキスポ2025」のイベント中に明確に見ることができた。すなわち、現在モンゴルにはセメント工場が7つあり、年間合計で450万トンのセメントを生産する能力があるにもかかわらず、2024年の総需要は230万トン、そのうち25万トンは輸入品、しかも品質に疑問があるセメントでまかなわれていたのである。

さらに、需要を上回る生産能力を持ちながら、新たにセメント工場の建設許可を得ようとする公式の発言もあった。これは、現在の市場を理解していないのか、それとも複数のメガプロジェクトに政府と「協力」しようとしているのか。常識的な論理では納得できない出来事が、この業界でも起き続けている。

業界の分裂

モンゴルの7つのセメント工場は、2024年に合計で220万トンのセメントを供給した。これは前年と比べて12%の増加である。もし生産能力をフル活用して230万トンを追加で生産できていたならば、何千戸もの住宅、何千キロメートルもの道路を建設することが可能だったはずである。それにもかかわらず、同年の総需要の12%を輸入に依存していた。

この矛盾の第一の理由は、中国製セメントの価格がモンゴル国内製の半額であることにある。中国のセメント生産量は年間20億トン、これは世界市場の50%にあたる。これは経済規模によるスケールメリットである。外貨で購入し、鉄道で輸送しても、関税がなければ国内製品より常に安い。地域によっては輸送距離の違いから中国製品の輸入のほうが有利であり、また都市部では国内セメントの貯蔵施設が不足していることも影響を与えている。

第二の理由は、モンゴルの電力供給が安定せず、輸入依存状態にあることである。ロシアの電力網に依存しているホブド県のセメント工場では、2024年に計画外で160時間の停電が発生し、設備の故障・損傷により生産コストが著しく上昇したと、ウェスタン・ホールド社の財務部長N.ハヤンヒャルワー氏が語っている。この業界では、電力価格の急騰と供給の不安定さが相まって、国内セメントの原価が急騰している。

第三の理由は品質の問題である。中国製の輸入セメントは、価格が安いが国際基準より多くのフライアッシュ(灰)を含み、製造日も不明瞭に表示されている。セメントは時間とともに劣化し、6か月以上適切に保管されなかった場合、強度が40%失われるという。しかも、モンゴルの国境には現在セメントの品質を検査するラボが存在しない。国際基準に準拠する国内メーカーは、ダンピング価格で販売される輸入セメントによって不公平な競争環境に追いやられている。

第四の問題は、道路の重量制限である。重量物を運搬する道路に新たな基準を導入したことにより、遠隔地から原料を輸送するコストが3倍に跳ね上がっている。道路建設の際に重量に対応した設計がされておらず、軽量道路ですら質を確保した施工がなされなかったため、破損や事故が頻発している。加えて、定期的な保守や修理がされていないにもかかわらず、突然このような要件が課されたことで、建材メーカーに大きな打撃を与え、コスト上昇から価格にも影響が及んでいる。

そして最後に、2026年からは建材製造に新規許可を出さないと建設・都市開発省の事務次官S.トムルフー氏が発表したことから、誰でも工場を建てられるが、政府と近い関係を持ち、大型プロジェクトを取得できる者だけが生き残り、その他は倒産するという構図が見えてきた。本来であれば、現在の能力の少なくとも70%を活用した後で、初めて新たな工場を建設するのが適切であるはずだ。

解決策

モンゴルは中国と経済規模で競争できないことを認め、建設の柱であるセメントの製造に特化した戦略的保護を実施する必要がある。

新たな工場を建設する代わりに、あらゆる資源を活用して現在ある工場の能力を最大限に活かす努力をし、設備を更新し、省エネ性能を高め、最新の品質管理システムを導入し、輸送・ロジスティクスのインフラを整備し、モンゴルの気候に適した特殊なセメント配合の研究開発に力を入れることが望ましい。

セメントが持続可能な原価以下で販売されている場合には、反ダンピング法に基づいて対処すべきである。政府はインフラ事業を実施する際、国内セメントのみを使用し、明確な品質基準を定め、国内メーカーに優先権を与える必要がある。

電力危機の解決は業界の競争力を高めるうえで極めて重要である。電力供給業者と電力供給保証契約を締結し、工場には予備電源、蓄電、再利用のための投資を行い、必須の生産には優先的に供給される工業用電力網を発展させるなどの措置が必要である。コスト削減を目的に、排出されたガスを再利用して電力消費の最大40%を賄う技術(WHR)を、例えばモンセメント社が導入している。

モンゴルでは価格だけでなく、品質の違いによる競争が求められている。国境においてセメントに対する品質要件を厳格に適用し、製造日、フライアッシュ含有量の証明書を求めるシステムを導入し、輸入品および国内品の基準と成分を検査する独立機関を設立し、基準に達しないセメントを供給した業者に対して高額の罰金を課すなどの仕組みを作る時期に来ている。全てのセメントが国際基準を満たしていることを証明することで、国内メーカーは価格だけでなく、品質と信頼性によって競争できるようになる。

セメント製造業界を新たな工場で分裂させるのではなく、既存の工場が生産能力をフルに活用する戦略的統合を選ぶ必要がある。小規模メーカーの統合・協力を奨励し、企業が共有できる追加資金を明確化し、各工場が特定製品に特化する戦略を発展させ、コスト削減を目的に共同のロジスティクス・配送ネットワークを導入することが可能である。

製造拠点の地理的分布を最適化し、需要が高い地域に戦略的セメント備蓄を形成し、大都市近郊に近代的な保管施設を設け、国内セメントに有利な輸送料金を適用し、供給ネットワークを最適化するために地域および季節ごとの需要マップを作成する必要がある。この地域別アプローチによって、近接という理由で輸入品に奪われていた市場を取り戻すことができる。

業界の集中情報システムを確立し、生産能力の利用状況を定期的に公表し、地域の需要傾向を予測し、工場の生産スケジュールを調整し、投資家に透明な市場情報を提供することが必要である。

インフラ整備はモンゴル経済の最重要課題である。インフラの主要素材はセメントである。モンゴルの政策決定者および業界リーダー達が、この業界のパラドックスが危機に至る前に、こういった対策を実施することを期待する。

2025年5月14日■

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