アラブ首長国連邦(UAE)は、かつては砂漠の中の小さく貧しい首長国だったが、わずか30年ほどで世界経済の中枢の一角ともいえる強国へと発展を遂げた国である。この国を実際に訪れて学ぶ機会があったため、UAEの特徴、歴史、政治体制、経済政策、モンゴルとの関係、そしてモンゴルがUAEの発展モデルから何を学べるかについて述べようと思う。
地理と経済
UAEは中東に位置し、サウジアラビアとオマーンと国境を接している。国土面積は約83,600㎢で、モンゴルのスフバートル県とほぼ同じ大きさである。人口は約1,000万人で、そのうちわずか10%が先住民族エミラティ人で、残り90%は外国人である。
UAEは世界で最も裕福な国の一つであり、その経済は石油、貿易、不動産、観光、金融から成り立っている。GDPは約5,450億ドル(世界銀行、2024年)で、一人当たりでは約5万ドル、中東ではトルコ、サウジアラビア、イスラエルに次ぐ水準である。
1971年にアブダビ、ドバイ、シャールジャ、アジュマーン、ウンム・アル=カイワイン、フジャイラ、ラアス・アル=ハイマという7つの首長国が連合してUAEが設立された。連邦最高評議会は憲法上の国家最高機関であり、立法・行政の両権限を有する。
大統領は伝統的にアブダビの首長が務め、ドバイの首長が首相兼副大統領となっている。現在の大統領はシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン、副大統領兼首相はシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥームである。
外国人労働者の高比率に対応する制度
急速に経済成長する一方で、人口が少ないためUAEは外国人労働者の受け入れが不可欠である。2024年時点で、インド人470万人、パキスタン人200万人、バングラデシュ人100万人、フィリピン人86万人をはじめ、200以上の国籍を持つ900万人が働いている。
エミラティ人は医療・教育サービスを無料で受けられるが、外国人は民間セクターに依存し、教育・医療は高額となるため、単身出稼ぎ労働者が多く、母国へ送金している。外国人は労働許可を取得・更新する必要があり、特定の投資額や専門人材であれば「ゴールデンビザ」による長期滞在も可能である。無許可就労は禁止されており、期限切れの場合は1日30ドルの罰金が科されるなど、厳格な制度が整備されている。
経済の急成長
かつては小規模で貧しい村落が点在し、真珠養殖、漁業、ナツメヤシ栽培、ラクダ飼育、交易に頼っていたこの地域に、1950年代に石油が発見された。その後インフラ整備が進み、急速な成長が始まった。
1971年にイギリスから独立し、7首長国が統合、シェイク・ザイード・ビン=スルターン・アール=ナヒヤーンの指導の下で国家運営が始まった。1981年には湾岸協力会議(GCC)に加盟し、地域の安定と協力に寄与してきた。1990年代以降、観光、貿易、金融の分野に注力し、ドバイはその発展の象徴的存在となっている。
経済政策と外国投資誘致の仕組み
現在のUAEの経済理念は「脱・石油依存、多様な経済の構築」であり、「ビジョン2030」で明確に示されている。経済の多角化と持続可能な政策が進められ、2024年時点でGDPの75%は非石油部門が占めている。
外国投資を誘致するために税制優遇や100%外資所有を可能とする自由貿易区を設置し、現在45か所で運営中である。法人税、輸出入税の免除、利益の国外持ち出し自由など多くの利点を提供されている。
また、インフラ整備も進み、国際空港、港湾、スマートシティが整備され、UAEは投資先としての魅力を高めている。その地理的位置も東西の架け橋として有利であり、AI、グリーンエネルギー、フィンテックへの投資が進んでいる。現在UAEは、新技術、AI、イノベーションの国際的ハブとなりつつある。
主な輸出品は、原油・精製油、ダイヤモンド、金、宝飾品、アルミ、自動車、テレビ機器、航空宇宙部品などであり、輸入品は2024年時点では金、携帯電話、石油、自動車、ダイヤモンド、コンピューターなどが主となっている。
UAEとモンゴルの関係
モンゴルは1996年にUAEと国交を樹立し、2022年にアブダビに大使館を開設した。両国は友好的な関係にあり、モンゴルはUAEから資源管理のあり方や、原材料依存を減らすための方法を学ぶ多くの機会を持っている。大使館開設以降、関係は急速に活性化し、過去2年で10件以上の協定が締結された。モンゴルの全パスポート保持者は2023年12月からUAEにビザなしで渡航可能となっている。
経済協力、教育、観光、環境の分野でも協力が進められており、政府間委員会が設立され、2025年2月には第1回会合が開催された。両国外務省間で政治協議メカニズムも確立され、官僚の研修・交流プログラムも実施されている。
両国の協力活動の一環で英語教師向けの遠隔研修も実施され、第1期として50人のモンゴル人教師がアリゾナ大学の証明書を取得した。また、2023年には湾岸諸国への初の正式なモンゴル産食肉輸出としてUAEで始まった。
2023年にモンゴルのフレルスフ大統領、2024年にオユンエルデネ首相がUAEを公式訪問している。モンゴルはロシアと中国の間という地政学的利点を活かし、外国投資に有利な環境を整えることで、UAEからの投資を呼び込む可能性がある。特に観光・物流拠点の開発に成功すれば、モンゴルは国際水準に到達できるだろう。こうした可能性については、モンゴル国会議員・副首相トグミド・ドルジハンド氏がUAE訪問中に語られた。
2025年2月25日、アブダビにてモンゴル政府とUAE政府間の「経済合同委員会」第1回会合が開催され、モンゴル側は副首相トグミド・ドルジハンド氏、UAE側は経済相アブドゥラ・トゥーク・アル・マリ氏が共同議長を務め、両国の関係省庁の関係者も出席した。
両国の友好関係は近年著しく拡大し、ハイレベルの相互訪問が常態化していることが確認され、今後は貿易、経済、投資、鉱業、エネルギー、輸送、農業、観光など多岐にわたる分野での連携強化が話し合われた。
双方は経済協力、貿易促進のためにビジネス関係者・投資家の相互訪問、商工会議所間の連携、国際会議・展示会への共同参加を活発化させることを決定した。また、鉱業、エネルギー(特に再生可能・クリーンエネルギー)分野での協力に重点を置き、法的枠組みの整備、UAEのベストプラクティスの導入、専門家の育成などで合意した。観光分野でも、旅行会社間の連携促進、経験共有を支援し、両国間の直行便開設についても協議し、UAE側が運航を検討することとなった。
経済合同委員会の成果として、副首相ドルジハンド氏と経済相アル・マリ氏は、貿易、鉱業、エネルギー、農業、観光などに関する包括的協力の推進に合意し、共同議事録に署名した。さらに、ドルジハンド副首相は、UAE大統領顧問ファイサル・アル・バンナイ氏およびバーレーン財務相シェイク・サルマン・ビン・ハリファ・アル・ハリファ氏とともに、石油・天然ガス・鉱物資源の探査・採掘における3カ国の協力覚書にも署名した。
このように、アラブ首長国連邦は、砂漠の中から世界経済の中心へと成長を遂げた国であり、経済の多角化、外国投資誘致政策、戦略的な地理的利点を活かした開発モデルから、モンゴルは独自の発展モデルを築くヒントを数多く得られるだろう。
2025年3月19日■