DEFACTO REVIEW (2018.05.20)
独占による危機
先週は航空・鉄道輸送に関する2つの出来事があった。1つは、韓国のウェブや新聞に「今日まで19年間ウランバートル‐ソウル間でMIATモンゴル航空と大韓航空が特別価格を設定し運航してきた」と言う報道が流れた。ソウル‐ウランバートル線とソウル‐香港線の所要時間は共に3時間10分、そして同じ量の燃料を消費する。しかしチケット代は、ピーク時で3倍、普段は2倍も高い価格に設定されている。これを見直すべきだと記載されていた。
この航空独占問題に関してはモンゴルでも度々話題に上がったが、どうにもならなかった。韓国で報道されたところでどうにかなるものでもない。価格が市場ではなく政府によって決められ、民間航空に対する税金も引き上げられ倒産に追い込まれた。しかし、MIATモンゴル航空は国の予算で「養われている」から、赤字であっても倒産することはない。特に市場を独占する国営企業はどんな時でも大きくなり、価格を調整して維持できる。
自由市場における独占とは、市場の過半数以上を1社もしくはグループ企業がシェアしていることをいう。
独占は、人々の需要に対する供給に関係なく価格を高く維持できるので、市場にとって良くない。価格競争で他のライバル企業が倒産した後に、1社で価格を引き上げてしまう。だから自由市場において独占に反対する声が多い。モンゴルでは航空や鉄道、電力、公共交通、エネルギー分野で独占がある。正当な独占とは、供給者が1社しかない時のみである。例えば、モンゴルの場合は電力供給者は1社しかない。
政府が独占について容認してきたことに対して、市場を開放して他社を参入させる他に選択肢がないと言われている。担当大臣及び首相は、航空市場の開放やウランバートル‐ソウル線、ウランバートル‐北京線の路線開放を春期国会で決めると話していた。これはモンゴルだけではなく、韓国の消費者も要求している。実現すればもちろん消費者にとっても有意義なことである。MIATモンゴル航空が赤字か黒字かは二の次である。
また、ダルハン第一駅で中国‐ロシア線の貨物列車が脱線する事故があった。事故の原因は枕木の腐食である。この脱線事故は数本の枕木が腐食していたという問題ではない。大問題である。これは、ウランバートル鉄道公社の上級職員の腐敗、ロシア・モンゴル両国の内閣のマネジメント能力が低下していることが原因である。鉄道事業の開放を図らない限り、両国内閣の適切な対応を待っているだけでは問題解決にはならない。
穀物を積んだ7、8台の車両が脱線した。もしこれが客車だったらどうするか?誰が乗客の安全を保障できるのか。貨物列車による輸送能力は年間2400万トンだ。2014年に初めてこの2400万トンに達したことがある。この輸送能力を増やす話が出ている。しかし、その前に2014年9月に何が起きたかを思い出す必要がある。モンゴル側から元道路輸送大臣A.ガンスフ、ロシア側からは株主代理人ウラジミールヤクニンの2人がウランバートル鉄道の改革、開発戦略協力について協議し署名した。当時は、プーチン大統領とモンゴル前大統領Ts.エルベグドルジが同席していた。この協議では既存の鉄道線の貨物輸送能力を年間1億トンにする。また、ウランバートル鉄道の電化を進め、サルヒト、エルデネトの鉄道線を北西に延伸してトゥヴァ共和国の首都クズルと繋ぎ、ロシアの鉱山製品をモンゴル経由で中国に運ぶ新しい路線を作る。モンゴルを経由する鉄道輸送量を増やすために、ボグドハーン新鉄道建設に協力することで合意していた。この合意は2014年に成立したが、今は既に2018年になっている。このまま合意事項が全く履行されない場合、誰が責任を負うのか。
公正競争・消費者保護庁は政府機関だから口を閉ざしたままだ。鉄道という大きな事業に関しては政府を恐れて何も言わないようだ。本来、政府というものは国民の下僕であるべきだ。国民のボスではない。
ロシアの他に鉄道の軌間が広い国はフィンランドとモンゴル。フィンランドは鉄道市場の開放を進めているようだ。客車サービス会社、鉄道修理サービス会社、鉄道固定資産会社、鉄道流動部品・機械設備会社の4つに分社化している。段階的に開放を進め8年間で独占を破るようだ。
7県を農業特区にする
内閣は地方自治体の提案を受け、7県63郡を「農業特区」にする決定を出した。農業特区の対象となった郡の殆どがアルハンガイ県、ヘンティ県、セレンゲ県、トゥブ県にある。農業特区とした主な目的は、自然環境保護、放牧地・農業地に関する規制、家畜による利益増加、農業地問題の調整をすることとなる。
18世紀イギリスでは、羊のウールを原料とした生地の製造が利益を生んでいたため羊の頭数が多くなり放牧地の問題が起こった。問題解決のために税金をかけたことで羊の放牧数を管理していた歴史がある。イングランドの法律家・思想家トマス・モアが「羊はおとなしい動物だが、イングランド人を食べつくしてしまう」という言葉を残している。これと同じようにモンゴルでは山羊が放牧地の草を食べつくしている。山羊が牧草地を食べつくして今では人間の食料まで食べようとしている。地方に家畜の頭数が多くなり、放牧地の砂漠化が深刻な問題となっている。セレンゲ県の人口はこの2、3年で3倍に増加した。セレンゲ県はもともと広大な農業特区である。そのため、農業と畜産業のどちらで生活していくかと多くの人が思案している。農作物が育ちやすい土地には農業を進めていくべきだと思う。しかし、畜産業は遊牧して営むもので、気候条件にこだわる必要がない。しかし農地に入って遊牧しているケースも見られるようだ。
今のところ遊牧民と農民の間で対立は起きていない。この土地問題を解決するために農業特区にすると発表しているが、その背景にある家畜問題を解決しなければならない。解決に当たり課税、地方自治体の管理機能、それぞれの放牧地における山羊の放牧数の管理、過剰放牧に税金を高く設定するなどで山羊の放牧を規制しなければならない。農業特区として発表した地域では畜産、放牧税を高くする必要がある。家畜を制限し、砂漠化を食い止め、地方に森林地を広げるために放牧税を徴収すべきだと思う。
保健医療従事者たちの闘争
保健医療分野の組合や団体が集まり、デモを行った。保健医療分野に従事する者たちの要求は、公正な勤務評価である。彼らの要求に増給という形で応じるのではなく、成果に応じて給与を計算するシステムを作る動きが浮上している。担当大臣はこの要求に対して全面的に応じたいと意思表明をした。
モンゴルは広い国土に対して人口が少ない事が問題でもある。フィンランドの国土面積はモンゴルの5分の1であり、人口は550万人。フィンランドは12の県に分かれていたが、つい最近6つの県に統廃合された。その理由は、医療サービスを提供する上で現実的な対策の一環である。フィンランドの議会は一院制なので、内閣が権限を持ち、地方は政府から与えられた権限を実施する形だ。フィンランドは地方行政の役割を増やした。モンゴルの保健医療分野における問題は、実施権が政府に集中し過ぎていることと関係している。過度な政府行政への権限集中は、その税額で現される。
一方、保健医療サービスの原資は国の予算と健康保険である。健康保険は言わば会社の資本である。健康保険が機能せず、集めた保険金の運用権を握る人たちが裕福になった。医療業務が進歩しないから、その資金を全く関係のない人たちに渡してきた。その全く関係ない人たちが裕福になった。今では供給者と消費者が1つになっている。自分の右手から左手へお金を渡している。
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