MARXISM AND THE FREE MARKET
2018年はカール・マルクス生誕200周年となる。先日、経営アカデミー准教授のO.ツェレンチメド博士は、ドイツ人小説家ディエトマー・ダス(Dietmar dath)の著書「カール・マルクス(マルクスの生涯と著書について記した伝記)」をドイツ語からモンゴル語に翻訳し出版した。これを受けステファン・デッペル在モンゴルドイツ連邦共和国大使は、2018年12月5日にウランバートルでO.ツェレンチメド博士や社会研究者、政府高官など多様な業界から多くの人々を集め討論会を開いた。私はその討論会の司会を務めた。
モンゴルの長い歴史のうち、約70年間はマルクス主義に直接関係している。彼の理論、思想の中心は何だったのか?彼の理論を取り入れた国々はどうして崩壊したのか?今日の世界が直面している主な問題を解決するために、彼の理論はどの様な影響と役割があるのかについて議論を行った。
共産主義という悪霊
1848年にイギリスでカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによる共著「共産党宣言」という綱領的書籍がある。この宣言は「一匹の悪霊がヨーロッパを徘徊している。共産主義という名の悪霊だ」という有名な序文で始まる。人類の発展において多大な影響を与えたとされるこの政治的書籍には「これまでに存在したすべての社会の歴史は、階級闘争の歴史である」と定義され、資本主義は将来的に共産主義に代わると書かれている。その20年後、カール・マルクスは有名な著書「資本論」の中で「資本主義社会にとってこの闘争は労働者階級と生産手段の所有者である支配者階級の間に発生する」と述べた。そのため、この闘争は生産手段の所有者が1人からすべての人に移るまで続き、次の社会制度、つまり共産主義社会の形成に至ると結論付けている。
この理論を現実の政治体制に取り入れる活動が1917年にロシアのウラジーミル・レーニンの指導下で始まった。ロシアのボリシェヴィキは国王を銃殺し、共産党指導部の下で労働階級の組織体制を形成し、私有財産を押収し公共の財産とし、農民の土地を統合し共同農地とした。その後、ロシアは極度の飢餓に陥った。第2次世界大戦後に共産主義が拡大し、東欧やアジアの多くの国々に広がった。
1980年代末、ポスト社会主義国と言われる東欧諸国の経済、政治体制は完全に崩壊した。多くの人々が冤罪を身に負い、西欧諸国へと亡命した。独裁的共産主義の試みは、世界中で1億人(そのうち中国では6500万人、ロシアでは2500万人、モンゴルでは4万人)の命を奪った。
生産手段を資本家から強制的に押収し、公共の所有にしたとしても共産主義は成立しない。如何なる国の発展も私有財産、自由市場なくして実現は不可能であることを歴史が証明した。共産主義は実に恐るべき悪霊である。
資本主義の内面的コンフリクト
共産主義体制は崩壊したが、一部の国々では共同所有、共同社会形成の思想は未だ完全には消滅していない。北朝鮮、キューバ、ベネズエラなど十数の国では、今でも共産主義が続いている。数百万の人々が独裁者の圧政に苦しみ、言論の自由もなく、貧困生活を強いられている。
マルクスが説いた生産手段の所有者と彼らに使われる労働者の間での闘争は21世紀に入り一層激化している。エコノミスト誌の2016年の調査では、アメリカの若者の過半数が資本主義を支持していない。資本主義社会における国民の格差がますます増加し、貧困率は拡大している。今、フランスを騒がしている「黄色いベスト運動」はその典型例である。フランス政府が自動車燃料税引き上げの決定を延期にした後もこの運動は拡大を続け、エマニュエル・マクロン大統領の辞任を要求している。
デモ隊は物価上昇により生活が苦しくなり、社会の中下層が貧困に追い込まれている。政府の無駄な歳出が大きくなる一方で、税金を引き上げるようになったことを批判している。フランス国民の75%がこの運動を支持している。これを受け、マクロン大統領は2019年から最低賃金を月額100ユーロ引き上げる対応を取らざるを得ないところまで追い込まれた。
2013年にフランスの経済学者トマ・ピケティが書いた「21世紀の資本論」は世界中で注目を集めた。彼は世界の経済発展300年分のデータを研究し、分析を行い、所得の不平等拡大を示し、マルクスが提唱した資本論のコンフリクトを証明した。不平等拡大は自然な現象であるため、ピケティは増税案を提言した。しかし、フランスでは高所得者に対して50%以上の税金を課しているため、富裕層は外国籍を取得し、税率が低い国に資産を移すようになった。
ドイツでは、高所得者層および低所得者層の格差を減少させるため、最初から平等な機会を与える目的で全ての段階の教育を無償にした。これは低所得者の子どもでも成功できる機会を与えてきた。また、生まれた時からビタミンが不足している子どもの知的および身体的発達は遅れがちである。だから、ヨーロッパ諸国では妊婦に対してビタミンを無料で提供している。
資本主義の改革
資本主義は自由経済の体系であり、この体系のみが人類の歴史において多大な富を生み出し、多くの人の生活水準を向上させてきた。政府の民主主義体制が形成されてから人類の歴史上、多くの人に政治的、経済的自由を与えることができた。
資本主義体制が存続する礎は、私的所有に基づいた自由市場、自由競争である。政府には国民の財産、権利、生命を保護する義務がある。国民の自由市場への信頼が失われ、自由競争が無くなれば、この体制は危機に陥る。政府による過度な干渉が自由競争の弱体化を招き、経済危機と社会混乱を巻き起こした。その時、歴史的な体制の改革が行われてきた。その例として、1980年代のイギリスのマーガレット・サッチャー、アメリカでのロナルド・レーガンの改革が挙げられる。
しかし、今21世紀、2020年代の資本主義体制の大改革は3つの方針で行われ、市場能力を回復させることをエコにミスト誌が提唱している(2018年11月15日版、13頁)。
まず、データおよび知的財産の保護において既存の権利の他に、新しいイノベーションを刺激するため、テクノロジー・サービスを受ける消費者は自分の情報を誰に渡すかを決める権利を確立させる。次に、政府はビジネスをスタートさせる時に競争規定を定めるのではなく、特定の専門ライセンスを要求する。ロビイストたちが用意した多種多様なライセンスの要求を無くす(今日のアメリカでは、労働者の20%が専門特別許可書をもっている。しかし、1950年にこの数字は僅か5%だった)。最後に、独占禁止法の改正を21世紀に適合したものにする必要がある。(消費者の権利を侵害する如何なる独占企業も、その事業も認めない)などである。
2018年12月13日
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