日本メディアの中のモンゴル

Kanako Onishi
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相撲と草原のほかに何がある?

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 「モンゴルといえば何を思い浮かべますか?」と日本人に尋ねてみると、こんな答えが返ってくることが多い。相撲、朝青龍、白鵬、草原、スーホの白い馬、星空、マンホールチルドレン……。「ウランバートルにはビルが建っているの?」と逆に聞かれることもたまにあり、経済発展のイメージはまだ薄い。 同じ北東アジア地域に属する近所の国でありながら、なぜモンゴルの情報は日本メディアで報道される機会がこんなに少ないのか? 習近平国家主席、プーチン大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、文在寅大統領は頻繁に取り上げられるのに、どうしてバトトルガ大統領の名前を聞くことはないのか? 新聞やテレビでよく話題になる国は当然、読者や視聴者にとっての存在感も大きくなっていく。モンゴルはこれからも「近くて遠い国」であり続けるのだろうか。 実際にはどれくらい少ないのだろう? 日経電子版で2010年から2018年までに掲載された「モンゴル」というキーワードを含む記事の数を年毎にカウントしたところ、以下の結果になった。 2010年142件、2011年132件、2012年185件、2013年208件、2014年246年、2015年180件、2016年201件、2017年204件、2018年204件。ちなみに2018年の場合、204件のうち48件が相撲の話題、13件が柔道などその他スポーツの話題で、131件がモンゴルの政治経済や文化の話題、12件が内モンゴルの話題だった。 同じ2018年で、「韓国」というキーワードを含む日経記事は7,479件、「北朝鮮」を含む記事は3,834件、「ロシア」を含む記事は4,736件、「中国」を含む記事は23,322件(「中国」というキーワードで検索した記事数から「中国地方」ならびに「中国電力」を含む記事数を引いた数)、「台湾」を含む記事は3,696件だった。比べてみると、モンゴルの記事は明らかに少ないと言える。メディアが取り上げたがる国 日本のニュースによく登場する国は、断トツでまずアメリカ。そして中国、韓国、北朝鮮、ロシア。さらにイギリス、フランス、ドイツなどのEU諸国、イランなど中東諸国、インドなど……。基準は経済力と軍事力の大きさ、リーダーのインパクトだろうか。 直近の「世界の名目GDP国別ランキング(2017年、IMF)」は1位から順に、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、ブラジル、イタリア、カナダと続き、モンゴルは136位。「軍事力ランキング(2018年、グローバル・ファイヤーパワー)」は1位から順に、アメリカ、ロシア、中国、インド、フランス、イギリス、韓国、日本、トルコ、ドイツと続き、モンゴルは87位だった。ちなみに北朝鮮は経済力124位、軍事力18位で、そこまで上位ではない。モンゴルの報道はなぜ少ない? そこで「なぜ日本メディアの中のモンゴルの報道は少ないのか?」と大手通信社政治部の現役記者に聞いてみたところ、以下のような回答だった。

 「モンゴルといえば何を思い浮かべますか?」と日本人に尋ねてみると、こんな答えが返ってくることが多い。相撲、朝青龍、白鵬、草原、スーホの白い馬、星空、マンホールチルドレン……。「ウランバートルにはビルが建っているの?」と逆に聞かれることもたまにあり、経済発展のイメージはまだ薄い。

 同じ北東アジア地域に属する近所の国でありながら、なぜモンゴルの情報は日本メディアで報道される機会がこんなに少ないのか? 習近平国家主席、プーチン大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、文在寅大統領は頻繁に取り上げられるのに、どうしてバトトルガ大統領の名前を聞くことはないのか? 新聞やテレビでよく話題になる国は当然、読者や視聴者にとっての存在感も大きくなっていく。モンゴルはこれからも「近くて遠い国」であり続けるのだろうか。

日本経済新聞で書かれた回数

 実際にはどれくらい少ないのだろう? 日経電子版で2010年から2018年までに掲載された「モンゴル」というキーワードを含む記事の数を年毎にカウントしたところ、以下の結果になった。

 2010年142件、2011年132件、2012年185件、2013年208件、2014年246年、2015年180件、2016年201件、2017年204件、2018年204件。ちなみに2018年の場合、204件のうち48件が相撲の話題、13件が柔道などその他スポーツの話題で、131件がモンゴルの政治経済や文化の話題、12件が内モンゴルの話題だった。

 同じ2018年で、「韓国」というキーワードを含む日経記事は7,479件、「北朝鮮」を含む記事は3,834件、「ロシア」を含む記事は4,736件、「中国」を含む記事は23,322件(「中国」というキーワードで検索した記事数から「中国地方」ならびに「中国電力」を含む記事数を引いた数)、「台湾」を含む記事は3,696件だった。比べてみると、モンゴルの記事は明らかに少ないと言える。

メディアが取り上げたがる国

 日本のニュースによく登場する国は、断トツでまずアメリカ。そして中国、韓国、北朝鮮、ロシア。さらにイギリス、フランス、ドイツなどのEU諸国、イランなど中東諸国、インドなど……。基準は経済力と軍事力の大きさ、リーダーのインパクトだろうか。

 直近の「世界の名目GDP国別ランキング(2017年、IMF)」は1位から順に、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、ブラジル、イタリア、カナダと続き、モンゴルは136位。「軍事力ランキング(2018年、グローバル・ファイヤーパワー)」は1位から順に、アメリカ、ロシア、中国、インド、フランス、イギリス、韓国、日本、トルコ、ドイツと続き、モンゴルは87位だった。ちなみに北朝鮮は経済力124位、軍事力18位で、そこまで上位ではない。

モンゴルの報道はなぜ少ない?

 そこで「なぜ日本メディアの中のモンゴルの報道は少ないのか?」と大手通信社政治部の現役記者に聞いてみたところ、以下のような回答だった。

「ニュースの格付けは、読者にとっての重要度で決まります。読者層は各新聞社によって微妙に違いますが、大枠でいえば日本の新聞社の場合、読者は日本国民です。つまり日本国民にとってそのニュースが、1.生活実態に影響があるか「そのニュースによって、あなたの生活が明日からどのように変わるか」、2.歴史的意義「そのニュースが、長い歴史の物差しでみたときに意味のあることなのか」、の2点が問われます。

 以上の1.2.の基準で考えると、海外のニュースの場合、A.その国の国力が国際社会の中でどの程度か、B.日本との友好度合いはどのようなものか、の2点で判断されます。

 その国の国力というのは、a.政治力(軍事力)、b.経済力、c.社会・文化面での影響力、の3点で決まります。a.の政治力では、いわば、安保理常任理事国に入っているか、核保有国かどうか、の2点が重要です。そう考えると、モンゴルはa. b.ともに国際的な影響力が低く、c.では相撲などを通して日本では多少影響力がありますが、中国や韓国やロシアなどの近隣諸国と比べると相対的に影響力は低いです」とのことだった。

 意外なのは、次の理由だ。

「モンゴルはしかも、日本とは基本的に友好的な関係なので、あまりニュースにならないのです。“誰かと誰かが仲良しだって”というニュースよりも、“誰かと誰かがケンカしているんだって”というほうが、ニュースになるのです」

 つまり安保理常任理事国ではなく核保有国でもないモンゴルは、日本と友好関係にあるがゆえに、日本メディアに登場する理由があまりないのだという。私自身はもっと日本メディアでモンゴルの話題を見聞きしたいと願う1人だが、それが理由なのであれば、モンゴルの報道が少ないことを喜ぶべきなのかもしれない。

 また別の日経の元記者は「支局がなく現地記者がいないので、記事の数は少なくなる」と、個人的見解だと前置きしたうえで話した。

 とはいえ希望的観測をこめて言えば、これからはモンゴルに関する報道が少しずつ増えていくと思う。日本の大手企業が、外食産業や再生エネルギーの分野でモンゴル進出を現在検討中という話もある。明るい話題が雑誌や新聞やテレビで日常的に出るようになれば、モンゴルが日本人にとって名実ともに「近い国」になるのではないか。

フリーライター 大西夏奈子 Kanako Onishi

2019年2月

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