「特定技能」制度の開始

Kanako Onishi
Kanako Onishi 7.3k Views
0 Min Read

在留モンゴル人が1万人を突破

Contents
 日本には何人のモンゴル人が暮らしているのだろう? 法務省「在留外国人統計」によれば、モンゴル国籍を持つ在留外国人の数は2018年6月時点で1万57人だ(ここには観光や親族訪問などが目的の短期滞在者は含まれない)。同省ホームページで確認できる過去12年分の在留人数をあげると、前年の2017年は9,144人、2016年は7,636人、2015年は6,590人、2014年は5,796人、2013年は5,180人、2012年は4,837人、2011年は4,669人、2010年は4,812人、2009年は4,727人、2008年は4,510人、2007年は3,983人、2006年は3,732人だった(2011年以前の人数は「外国人登録者」を参照し、「総数」から「短期滞在者」をマイナスして算出した)。 毎年数百人ずつ増えていることになるが、2016年は前年から約1,000人も、2017年は前年から約1,500人も増えており、増加数が近年大きくなっている。 滞在資格の内訳は2017年の場合、総数9,144人のうち「留学」が3,150人、「技能実習」が1,099人、「技術・人文知識・国際業務(エンジニア、通訳、デザイナーなど)」が1,097人、「家族滞在(在留モンゴル人の配偶者・子)」が1,664人で、留学生が圧倒的に多い。 そして今年以降、在留モンゴル人の数はさらに増えると予測される。昨年末から何かと話題になっている「特定技能」制度が2019年4月に始まり、対象9カ国にモンゴルが含まれているためだ(他はベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール)。 「特定技能」とは、2018年末の臨時国会で政府が提出した入管法改正案の成立により新設された在留資格で、今後5年間で最大34.5万人の外国人受け入れが見込まれている。背景には日本国内の深刻な労働力不足がある。日本では15歳以上65歳未満の生産年齢人口が1997年をピークに減り続ける一方で、2017年11月の有効求人倍率が高度経済成長期だった1974年以来43年11カ月ぶりに高水準の1.59倍を記録(つまり求職者100人に対し159人分の求人がある)。2018年の平均有効求人倍率は1.61倍に上がり、企業側と求職者側の需給ギャップが広がっている。 政府は労働力確保のために女性や高齢者の活躍を推進しているものの、それでも足りない産業分野で外国人労働者を受け入れようと「特定技能」を創設した。日本ではすでに外国人留学生や「技能実習生」が働いているが、彼らの在留目的は学業や技術習得であって就労ではない。しかし「特定技能」は目的が就労そのものなので、これまでの資格と性質が違う。言い換えれば「堂々と外国人労働者を受け入れるための在留資格」ということだろう。「特定技能」の外国人を雇用できる産業分野と受け入れ見込み数の最大値はあらかじめ決められている。現状では、厚労省所管の「介護(60,000人)」「ビルクリーニング(37,000人)」、経産省所管の「素形材産業(21,500人)」「産業機械製造業(5,250人)」「電気・電子情報関連産業(4,700人)」、国交省所管の「建設(40,000人)」「造船・船用工業(13,000人)」「自動車整備(7,000人)」「航空(2,200人)」「宿泊(22,000人)」、農水省所管の「農業(36,500人)」「漁業(9,000人)」「飲食料品製造(34,000人)」「外食業(53,000人)」となっている。実質的な「移民」?「特定技能」には1号と2号の2種類があり、2019年4月時点で受け入れが始まるのは1号のみで、2号の開始は2021年からの予定。どちらも日本企業からの直接雇用かつフルタイム雇用が原則だ。1号を取得するには、特定技能評価試験(技能水準および日本語試験)に合格する必要があるが、「技能実習」(3年間)の修了者は試験免除で「特定技能1号」の資格を得られる。さらに「特定技能1号」(5年間)の修了者は「特定技能2号」へ移行できる。「特定技能2号」は制限なく滞在期間を更新できたり、家族を日本に呼び寄せられる(ただし配偶者や子のみ可能で親や親戚は不可)という大きな特徴がある。 つまり最初は「技能実習生」として来日した外国人が、3年後に「特定技能1号」へ移行し、そこからさらに5年後に「特定技能2号」へ移行すれば、帰国せずに在留期間をいくらでも伸ばせるのだ。安倍晋三首相は「移民政策ではない」と繰り返しているものの、家族を伴って日本に長期的に暮らせるとなれば、実質的には「移民」と言えるのではないか。 なお現状では「特定技能2号」の対象が「建設」と「造船・船用工業」の2分野に限られているため、「特定技能1号」でそれ以外の産業を選んだ人は2号に移行することができず、1号修了後に帰国しなければならない。モンゴル人の反応「技能実習」制度に関しては、労働環境の悪さや賃金の低さからネガティブな報道が目立つ(賃金については、斡旋会社に渡航費を借金して来るため、給与から返済分が引かれて手取りが僅かとなる場合が少なくない)。転職は許されず帰国したくてもできずで、失踪するケースもある。報道によれば、2017年は全「技能実習生」27万4,233人のうち約2.6%にあたる7,089人が失踪した。 反対にポジティブな意見もある。今年1月にウランバートルで「技能実習」修了生のモンゴル人約100人を対象に開催された「特定技能」制度の説明会で、「もし再び技能実習生をやれるならまた日本で働きたいですか?」という問いに対し、「以前働いた職場でまた働いてもいい」と答えた参加者が80%、「以前働いた職場でまた絶対働きたい」と答えた参加者が30%いたという。つまり就労環境の良し悪しは個々の日本企業や斡旋会社によるところが大きいようだ。2018年6月のモンゴルの失業率は7.5%。「特定技能」は給与水準が日本人と変わらないので、「技能実習」でポジティブな経験を持つモンゴル人にとっては当然魅力的に感じるかもしれない。 この説明会を主催した株式会社MJC(モンゴル理系人材と日本企業をマッチングする日本語学校兼コンサルティング会社)の共同経営者・トゥグルドルさんは、「技能実習に関する良い事例はほとんど報道されないため、ネガティブな印象が強くなるのではないでしょうか」と言う。また「本当はもっと長く働きたかったという元技能実習生のモンゴル人にとって特定技能の創設は朗報であり、もっと長く働いてほしかったと望む日本企業にとっても同様です。しかしこの制度は始まったばかりで、送り出すモンゴル側のライセンスがどうなるかなど不明点も多く、今後の展開を注意して見ていく必要があります」と話す。

 日本には何人のモンゴル人が暮らしているのだろう? 法務省「在留外国人統計」によれば、モンゴル国籍を持つ在留外国人の数は2018年6月時点で1万57人だ(ここには観光や親族訪問などが目的の短期滞在者は含まれない)。同省ホームページで確認できる過去12年分の在留人数をあげると、前年の2017年は9,144人、2016年は7,636人、2015年は6,590人、2014年は5,796人、2013年は5,180人、2012年は4,837人、2011年は4,669人、2010年は4,812人、2009年は4,727人、2008年は4,510人、2007年は3,983人、2006年は3,732人だった(2011年以前の人数は「外国人登録者」を参照し、「総数」から「短期滞在者」をマイナスして算出した)。

 毎年数百人ずつ増えていることになるが、2016年は前年から約1,000人も、2017年は前年から約1,500人も増えており、増加数が近年大きくなっている。

 滞在資格の内訳は2017年の場合、総数9,144人のうち「留学」が3,150人、「技能実習」が1,099人、「技術・人文知識・国際業務(エンジニア、通訳、デザイナーなど)」が1,097人、「家族滞在(在留モンゴル人の配偶者・子)」が1,664人で、留学生が圧倒的に多い。

「特定技能」とは

 そして今年以降、在留モンゴル人の数はさらに増えると予測される。昨年末から何かと話題になっている「特定技能」制度が2019年4月に始まり、対象9カ国にモンゴルが含まれているためだ(他はベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール)。

 「特定技能」とは、2018年末の臨時国会で政府が提出した入管法改正案の成立により新設された在留資格で、今後5年間で最大34.5万人の外国人受け入れが見込まれている。背景には日本国内の深刻な労働力不足がある。日本では15歳以上65歳未満の生産年齢人口が1997年をピークに減り続ける一方で、2017年11月の有効求人倍率が高度経済成長期だった1974年以来43年11カ月ぶりに高水準の1.59倍を記録(つまり求職者100人に対し159人分の求人がある)。2018年の平均有効求人倍率は1.61倍に上がり、企業側と求職者側の需給ギャップが広がっている。

 政府は労働力確保のために女性や高齢者の活躍を推進しているものの、それでも足りない産業分野で外国人労働者を受け入れようと「特定技能」を創設した。日本ではすでに外国人留学生や「技能実習生」が働いているが、彼らの在留目的は学業や技術習得であって就労ではない。しかし「特定技能」は目的が就労そのものなので、これまでの資格と性質が違う。言い換えれば「堂々と外国人労働者を受け入れるための在留資格」ということだろう。

「特定技能」の外国人を雇用できる産業分野と受け入れ見込み数の最大値はあらかじめ決められている。現状では、厚労省所管の「介護(60,000人)」「ビルクリーニング(37,000人)」、経産省所管の「素形材産業(21,500人)」「産業機械製造業(5,250人)」「電気・電子情報関連産業(4,700人)」、国交省所管の「建設(40,000人)」「造船・船用工業(13,000人)」「自動車整備(7,000人)」「航空(2,200人)」「宿泊(22,000人)」、農水省所管の「農業(36,500人)」「漁業(9,000人)」「飲食料品製造(34,000人)」「外食業(53,000人)」となっている。

実質的な「移民」?

「特定技能」には1号と2号の2種類があり、2019年4月時点で受け入れが始まるのは1号のみで、2号の開始は2021年からの予定。どちらも日本企業からの直接雇用かつフルタイム雇用が原則だ。1号を取得するには、特定技能評価試験(技能水準および日本語試験)に合格する必要があるが、「技能実習」(3年間)の修了者は試験免除で「特定技能1号」の資格を得られる。さらに「特定技能1号」(5年間)の修了者は「特定技能2号」へ移行できる。「特定技能2号」は制限なく滞在期間を更新できたり、家族を日本に呼び寄せられる(ただし配偶者や子のみ可能で親や親戚は不可)という大きな特徴がある。

 つまり最初は「技能実習生」として来日した外国人が、3年後に「特定技能1号」へ移行し、そこからさらに5年後に「特定技能2号」へ移行すれば、帰国せずに在留期間をいくらでも伸ばせるのだ。安倍晋三首相は「移民政策ではない」と繰り返しているものの、家族を伴って日本に長期的に暮らせるとなれば、実質的には「移民」と言えるのではないか。

 なお現状では「特定技能2号」の対象が「建設」と「造船・船用工業」の2分野に限られているため、「特定技能1号」でそれ以外の産業を選んだ人は2号に移行することができず、1号修了後に帰国しなければならない。

モンゴル人の反応

「技能実習」制度に関しては、労働環境の悪さや賃金の低さからネガティブな報道が目立つ(賃金については、斡旋会社に渡航費を借金して来るため、給与から返済分が引かれて手取りが僅かとなる場合が少なくない)。転職は許されず帰国したくてもできずで、失踪するケースもある。報道によれば、2017年は全「技能実習生」27万4,233人のうち約2.6%にあたる7,089人が失踪した。

 反対にポジティブな意見もある。今年1月にウランバートルで「技能実習」修了生のモンゴル人約100人を対象に開催された「特定技能」制度の説明会で、「もし再び技能実習生をやれるならまた日本で働きたいですか?」という問いに対し、「以前働いた職場でまた働いてもいい」と答えた参加者が80%、「以前働いた職場でまた絶対働きたい」と答えた参加者が30%いたという。つまり就労環境の良し悪しは個々の日本企業や斡旋会社によるところが大きいようだ。2018年6月のモンゴルの失業率は7.5%。「特定技能」は給与水準が日本人と変わらないので、「技能実習」でポジティブな経験を持つモンゴル人にとっては当然魅力的に感じるかもしれない。

 この説明会を主催した株式会社MJC(モンゴル理系人材と日本企業をマッチングする日本語学校兼コンサルティング会社)の共同経営者・トゥグルドルさんは、「技能実習に関する良い事例はほとんど報道されないため、ネガティブな印象が強くなるのではないでしょうか」と言う。また「本当はもっと長く働きたかったという元技能実習生のモンゴル人にとって特定技能の創設は朗報であり、もっと長く働いてほしかったと望む日本企業にとっても同様です。しかしこの制度は始まったばかりで、送り出すモンゴル側のライセンスがどうなるかなど不明点も多く、今後の展開を注意して見ていく必要があります」と話す。

フリーライター 大西夏奈子 Kanako Onishi

2019年3月

Share this Article
Leave a comment