エルデネビレグという人物は、その存在がもはや個人というより、21世紀のモンゴルでエルデネビレギズムという現象となるまで存在感を強めた。今日、モンゴルで発生している中小企業支援基金、教育ローン基金、開発銀行融資、石炭横領など数々の汚職事件と、これらに関する国会公聴会の場で繰り広げられた汚職マフィアの抗争の過程を見ると、モンゴルには多数のエルデネビレグが誕生していることが分かる。モンゴルの政治制度、統治、国民の意思、そして選択がこの国に多くのエルデネビレグを生み、強くしてきた。政府のあらゆる部門に腐敗が蔓延り、政財界の寡頭政治家がモンゴル政府を完全に乗っ取っている。
現オユンエルデネ政権は、腐敗に対してある程度具体的に議論し取り組んでいるが、現時点で誰も責任を取っていないことを強調しなければならない。賄賂対策庁や警察庁によって多くの汚職事件が摘発され、司法機関に送致していると言われるが、それが送検された段階、裁判の段階になると行き詰まり、後戻り、延期、事件の分離などが繰り返され、公判が行われない。そのせいで事件の関係者や被告人が海外に逃亡し、国内に不在という理由で延々と裁判が開かれない。その結果、時効が成立したなどで裁判が消滅する。だがこれが、その被告人が犯罪者であることを証明しているといえる。
今日、モンゴルでは正義が失われ、オリガルヒは手段を選ばず富を手にし、判事は買収され、法律は不平等に機能し、彼らはやりたい放題である。国民はこういったことに慣れているように見えるが、現実には社会に混乱が起きる可能性が高まっている。この記事では、公的資金がどのように横領され、犯人がどのように逃亡しているかについての事実を明確に伝える。
モンゴル最大商業銀行のオーナーの逃亡
私は過去、2016年に“エルデネビレギズム~モンゴル民主主義の新しい現象~”、2019年に“エルデネビレギズムⅡ~モンゴルの腐敗劇場がまたひとつ幕を開ける~”という2つの記事を書いた。この2つの記事でオリガルヒが国の公的資金を使いどのように富を蓄えてきたかについて述べた。
2000年頃、首都ウランバートルに建物を建設するには、市政府から土地所有権の許可を取得し、ウランバートル基金に多額の寄付をし、市長に建物の数部屋を贈与することが当たり前だった。これが今日のウランバートル市の無秩序で無計画な建築物や交通渋滞の根本原因である。ウランバートル基金に寄付金を募り、その基金でウランバートルシティ銀行が設立された。この銀行にウランバートル市のすべての公的機関の税務口座が開設され、銀行の資産額が急拡大し、自己資本を増やすことが急務となった。
エルデネビレグ氏は、銀行の登録資本が増えるたびに株式を増やし、すぐにこの銀行の株式の99%を保有するようになった。また、彼にはスフバートル広場の半分とその他に7~8の幼稚園の園庭の所有権が与えられた。これには、M.エンフボルド元国会議長をはじめ、E.バトウール氏までの歴代市長全員が共犯者である。
また、エルデネビレグ氏は、ウランバートルシティ銀行の資金を一時的に別の口座に移し、ジェラルド・メタル社から貿易開発銀行(TDB)を7,000万ドルで買収した。そして、2つの銀行を通じてモンゴル経済のあらゆるセクターを支配下に置いた。さらに、テレビ(ブルームバーグ・モンゴル)、雑誌(フォーブス・モンゴル)、新聞(ガバメント・ニュース)などのメディア機関を買収し、自分にとって有利な情報を国民に配信するようになった。これらすべての「協力者」は、歴代政府指導者と政治家である。エルデネビレグ氏は、政治家に資金を提供し、選挙活動に数十億もの資金を投じ、大統領から政府高官まで順番に「買収」していった。そして彼は自分のビジネスに有利になる法律や規定を出させ、政府のあらゆる部門、特に司法権または司法機関に自分の側の人物を任命させてきた。
エルデネビレグ氏は、独自の民営化計画を設計し、TDB銀行を通じて「ダルハン精鉄工場」、「フトゥルセメント工場」の2社をエルデネト鉱業、モンゴルロスツェトメト社を乗っ取ったのと同様の手口で手中に収めた。今後、バガノール炭鉱、第3・4火力発電所も同様に手に入れるようだ(Udriin sonin、2016年10月3日版)。
TDB銀行は、ウランバートルの歴史ある「子どもの図書館」を取り壊し、ガラス張りの高層ビルを270億トゥグルグかけて建設した。このビルの11階と12階を国営銀行であるモンゴル開発銀行に270億トゥグルグで、10階を自身の銀行を通じて所有しているMIK社に150億トゥグルグで売却した。エルデネビレグという人物は、政府機関から資金を調達し、商いを行うことに関しては特殊な「才能」を持っているといえる。政府は、これらを見て見ぬふりをしていた。そして彼は、モンゴル政府だけでなく、ロシア政府とも取引してきた。
エルデネビレグ氏は、モンゴル政府にエルデネト鉱業を買収しないという決定を出させ、モンゴルロスツェトメト社の株式の49%をロシア政府から買い取った。その買収のために4億ドルの資金を調達した。そのうちの30%は財務省、モンゴル銀行(中央銀行)、モンゴル開発銀行から自身の会社QSC社を通じて受け取った。残り70%をTDB銀行が大臣や市長が所有する企業4社に融資するという形で拠出し、国政選挙の数日前に設立したモンゴルカッパーコーポレーション社を通じてロシアに振り込んだ。
エルデネト鉱業の株式の49%を取得した後、2016年3月~8月の間に銅を安く買い取り、高価で転売し、配当金を配るなどとしてエルデネト鉱業に1億2,000万ドルを出させ、さらにモンゴル銀行から7,800万ドル、財務省から7,200万ドルの融資をそれぞれ受け、TDB銀行の融資を返済した。エルデネビレグ氏は、当時の政府を率いていたアルタンホヤグ首相、サイハンビレグ首相、バトバヤル大臣、ボロル大臣、そしてゾルジャルガル中央銀行総裁の関与なしには、これらすべてを滞りなく行うことはできなかった。
このように国庫(公的資金)でエルデネト鉱業の株式の49%を取得したため、国との交渉が進み、株式の49%は政府に帰属するという国会の決定が出された。しかし、モンゴルカッパーコーポレーション社はそれを認めなかった。この決定が出された国会で、当時のエルベグドルジ大統領は、エルデネト鉱業は「もう年老いて何も出なくなった乳牛」であり、政府に帰属させた方が良いと擁護していた。
モンゴルの裁判は、このような詐欺事件の裁判の延期を続け、8年の歳月が流れた。
シンガポールからの反転作戦
エルデネビレグ氏は、現在シンガポールにいるという。2023年2月、捜査のために拘留されていたエルデネビレグ氏に、ソンギノハイルハン区の判事は30億トゥグルグの保釈金と引き換えに、治療のためシンガポールに行く許可を出した。シンガポールで14日間の治療を受けて帰ってくるはずのエルデネビレグ氏が、10ヶ月経ってもモンゴルに戻っておらず、誰も彼を連れ戻すための措置を講じていない。保釈金はおそらく国の収入になったかと思う。その程度の額は彼にとってなんでもない。政府はエルデネビレグ氏をインターポールに捜索依頼をしたが、エルデネビレグ氏は弁護士を通じて政府になぜ捜索依頼を出したかの説明を求めていると伝えられている。実際、国連腐敗防止条約によって強制的に連れ戻すことは可能である。
エルデネビレグ氏は、シンガポールに登記されているボロー・ピテ(Boroomc.com.sg)という自身の会社に数百万ドルをモンゴルから送金してもらい、2021年にペルーでBarrick Goldという会社から金鉱山を買い取り、社名を「Minera Boroo Misquichilca SA」に変更したという。この会社のホームページを見ると、幹部陣には会長兼CEOにエルデネバートル・ドゥルグーン、副会長にエルデネチョローン・アルタンオチルなどのモンゴル人、そして外国人が数名確認できる。ホームページには、取締役会長の名前がないものの、それはエルデネビレグ氏である。この金鉱山は、2023年に175,000オンスまたは5トンの金を採掘するとあり、これは現在の金相場で3億3,000万ドルである。ここからコストを引いて約2億ドル、つまり6,800億トゥグルグが、エルデネビレグの懐に入る。
この金は、2024年に予定されている国政選挙の宣伝活動、票の買収、そして政権を握り彼に恩赦を与える政党および候補者への支援に使われるだろう。こうしてエルデネビレグ氏は、裁判を延期させ、2024年の国政選挙を買収し、自分たちの犯罪が消滅する日を指折り数えて待っている。
歴史的な政治取引が2024年の国政選挙で行われる可能性が非常に高い。例えば、エルデネビレグ氏は、スフバートル広場の東側にあった民主党の建物を買収し、取り壊した。その跡地に高層ビルを建設し、その上選挙に必要な資金を十分に提供するという提案に民主党はNOと言えるだろうか?選挙で民主党が勝利すれば、その代わりにエルデネト鉱業の株式49%を彼に譲渡するというような取引が行われてはいないだろうか?人民党内にも潮目が変わることを待っている大きな派閥があり、彼らが何をどのように取引するかは皆目見当もつかない。
このようにエルデネビレグたちは、国政選挙を待ち構え、そして政府全体を自分たちの支配下に置くためのあらゆる準備をしている。問題は、エルデネビレグだけというより、モンゴルの政党の資金調達制度やシステムが、オリガルヒたちを作り上げ、強大となる温床になりつつあるということである。
しかし、政財界のオリガルヒ犯罪集団が、モンゴル国民の良心、自由、信念を買うには力不足であることを期待している。モンゴル人は、数百年にもわたる戦いの末に多大な犠牲を払って獲得した国と自由を、少数の犯罪者のゲームの担保にするような国民ではないからだ。■