モンゴルではジェンダーに基づく暴力の実態、暴力の根本的な原因、政府が実施している対策とその効果について再度議論する必要がある。なぜなら、モンゴルでは女性の2人に1人が暴力を受けているからだ。
暴力
国家統計局と国連人口基金による共同調査の結果では、モンゴルの女性の2人に1人、人数にして50万人が人生のある時点で最も身近な人(家族、親戚、交際相手)から暴力を受けたとされている。また、女性の3分の1にあたる29万人が身近な人から性的もしくは身体的暴力を受けたという。
また、女性の40%は身近な人から束縛や精神的DVを、17%が他人からの暴力を、女性の5人に1人が経済的DVを受けている。そして、女性の10人に1人は、15歳になる前に性的暴力を受けており、その多くは家族によるものである。
少女や女性は、家庭、学校、職場、公共の場、インターネットで暴力、脅迫にさらされており、これらが彼女たちの健康、自信、幸福に悪影響を及ぼしている。2023年上半期では、家庭内暴力による死亡者数は前年同期比で20%増加している(警察庁発表)。女性に対する暴力は、人権と健康の問題だけでなく、国家、社会、経済、さらには国の発展の問題となっていることを示している。
なぜなのか?
最近発表されたジェンダーに基づく暴力調査の詳細分析を見ると、男性の暴力行為の主な社会的要因は、低学歴、失業、貧困であり、行動的要因はアルコールの過剰摂取である。また、男性同士の殴り合い、不倫関係にある相手、身近な人やパートナーに対する暴力でも一つの行動的要因となっている。
貧困は、ストレス、圧力を増大させ、家庭内暴力につながる危険要因となっている。分析によると、2人またはそれ以上の子どもを持つ女性は、より暴力を受ける傾向にあることが示されている。しかし、これは富裕層や中間層の家庭に暴力がないということではない。女性は幼少期に暴力を受けたこと、暴力を目撃したこと、母親が暴力を受けているのを目撃したことなどの社会的背景が、成人期における暴力の危険要因となっている。したがって、女性は裕福であっても、貧困であっても、暴力にさらされている可能性があるということだ。
暴力の根本的な原因
50万人の女性が経験している暴力の根本的な原因は、ジェンダーに対する否定的で固定的な曖昧な認識と、ジェンダー不平等や社会に確立された有害な規範である。モンゴル人女性は、男性の2.6倍の時間を無給の家事や介護労働に費やしているが、意思決定への参加は依然として不十分である。ジェンダー不平等は、女性に経済的、社会的脆弱性をもたらすだけでなく、暴力にもさらしている。
モンゴルでは人口の大多数がソーシャルネットワークを広く利用している。したがって、オンラインでの暴力件数は増加傾向にある。少女や女性は、家庭、学校、職場、公共の場、さらにはオンライン上でも、もはや安全な場所を確保できない状況となっている。
では、今どうするべきか?
言うまでもなく、政策レベルで必ず実施しなければならない対策がある。
第一に、少女と女性に対する暴力への対応措置を強化し、関連法の施行を加速させ、暴力を事前に防止すること。また、暴力に関する数字や証拠などあらゆる情報についてデータベースをより強化するために、証拠に基づいた戦略「モンゴルにおけるジェンダーに基づく暴力を防止する国家行動計画2024~2030年」を作成し、実施すること。具体的には、
当事者および関係者の参加をマッピングすることで、関係セクター間の調整および実施をサポートする計画を作成すること。
国家行動計画は、予算が設定されたものであること。
第二に、多分野の参加を促進し、ジェンダーに基づく暴力を事前に防止し、暴力への対応措置をより強化すること。特に、その中で最も重要な役割を果たす教育および保健分野の関係者の参加をより促進すること。すべての関係者は、職場におけるジェンダーによる暴力を事前に防止し、対応措置を講じるために具体的な政策、規定を実施し、リードしていくことである。
第三に、ジェンダーに基づく暴力に関する全国分布調査を定期的に行うなど、ジェンダーに基づく暴力に関するデータ収集や分析をするほか、データを活用するための総合的なアプローチを開発することである。また、モンゴルの状況に適した証拠を作るための研究能力を向上させるとともに、研究結果やデータを理解し、国の政策やプログラムに反映させる能力を強化することである。
第四に、教育機関の教育カリキュラムにジェンダーに基づく暴力についての内容を組み込むこと。学校の教育カリキュラムに性教育について包括的な内容を反映させること。特に、ジェンダーに基づく暴力を事前に防止するための方法や対応措置についての内容を反映させることである。
第五に、持続可能な開発目標5の実施を加速するためのロードマップを作成すること。ジェンダーに基づく暴力の根本原因となるジェンダー平等を保障することは、ジェンダーに基づく暴力を撲滅することと密接に関係している。したがって、このロードマップは、ジェンダーに基づく暴力を根絶するための戦略の実施、社会のあらゆる段階におけるジェンダー平等を保障するものであるべきだ。このロードマップは、2030年までにモンゴルにおいてジェンダー平等を確立するため、政府機関、ドナー機関、開発パートナー、モンゴルでの国連、民間企業、市民社会、および一般の有意義な貢献をサポートすることになる。
市民が取り組むべきことは何か?
少女と女性を暴力から守り、ジェンダーに基づく暴力を撲滅することは、政府だけの仕事ではない。これは、国際機関、ドナー、民間部門、市民社会団体、家庭、個人など、すべての人々が関係する取り組みである。
特にメディア分野は、ジェンダー平等を保障することの意義や重要性、ジェンダーに基づく暴力とそれが及ぼす影響について、人々の理解・認識を向上させる上でとても重要な役割を果たす。また国民の代弁者となり、ジェンダー差別やジェンダーに基づく暴力の背後に隠れているジェンダーに対する固定観念について議論する機会がなく、声をあげることができない人々のためのプラットフォームとしても機能することができる。
また、芸術および文化機関も重要な役割を果たす。例えば、ジェンダーの平等、意思決定への平等な参加を表現する映画やコンテンツが増えれば、その視聴者たちはジェンダー平等を理解し、支持するきっかけとなりうるだろう。
モンゴルの学校教育カリキュラムには、性教育についての総合的内容が盛り込まれている。また、ジェンダーに基づく暴力の防止、ジェンダーの平等を保障することについての理念や概念についても教育カリキュラムに組み込む必要がある。
いずれにせよ、誰もがどこにいても女性を尊重し、暴力の対象としないように努める必要がある。暴力をなくすことは、私たちの家族、友人、そして同僚の行動の変化から始まる。■