加熱する米中貿易戦争
世界の動きが凄まじい。5月5日にトランプ大統領が中国からの2000億ドル相当の輸入品に対して関税率を10%から25%に引き上げることを表明すると、報復として、5月13日に中国がアメリカからの600億ドル相当の輸入品に対し関税率を25%に引き上げることを表明。2018年から続く米中の関税引き上げ合戦がヒートアップしている。
さらに5月15日には、米国商務省産業安全保障局が華為技術(ファーウェイ)ならびに関連する約70社を規制リストに追加すると発表した。ファーウェイ製品には安全保障上のリスクがあるというのが主な理由で、その結果ファーウェイと関連会社は米企業から部品を購入することが事実上できなくなった。間もなく世界を圧巻する5G通信の主導権をファーウェイに握られないよう、今のうちに手を打ったということだ。なおオーストラリアは米国よりも早い2018年8月時点で、自国の5G計画からファーウェイを締め出している。
香港、イラン
他地域でもめまぐるしい展開が続いている。香港では6月9日、逃亡犯条例改正反対のデモに100万人以上が参加。激しい市民の抵抗を受け、6月15日に香港のキャリー・ラム行政長官は審議延期を発表したが、翌日再び190万人のデモが行われた。香港での出来事は台湾の人々にとっても他人事でなく、来年の台湾総統戦の行方に大きな影響を及ぼしそうだ。
イラン沖合では、6月13日に日本と台湾が所有する石油タンカーが攻撃された。米国とイランの仲介役を試みた安倍総理大臣のイラン訪問中に起きた事件ということもあり、イランは親日国として知られているものの、今回はさすがに緊張が走った。そして6月24日、米国がイラン最高指導者のハメネイ師と彼の直属組織であるイラン革命防衛隊の司令官達への追加制裁を発動し、イランが猛反発の姿勢を見せている。
激動の最中でのG20開催
日々刻々と世界情勢が変わる中、6月28・29日に大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が開催される(筆注:本原稿はG20開催直前の6月25日に書いたものです)。日本がG20のホスト国を務めるのは初めてだ。
G20の影響力は大きい。加盟国はG7(日本、米国、フランス、英国、ドイツ、イタリア、カナダ)と、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、インド、インドネシア、韓国、南アフリカ共和国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、そして欧州連合(EU)。これらの国と地域のGDP合計は世界全体のGDPの9割を占め、貿易総額は世界全体の約8割を占め、総人口は世界全体の3分の2にも及ぶ。
今回は上記以外に、オランダ、シンガポール、スペイン、ベトナム、タイ(ASEAN議長国)、エジプト(AU議長国)、チリ(APEC議長国)、セネガル(NEPAO議長国)、国連(UN)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)、国際労働機関(ILO)、金融安定理事会(FSB)、経済協力開発機構(OECD)、アジア開発銀行(ADB)、世界保健機関(WHO)が招待される。招待国は議長国の裁量で決められるというが、ここにモンゴルが含まれていないのは残念だ。
6月15〜17日には河野太郎外務大臣がモンゴルを訪問したばかりで、それとは別にトランプ大統領と金正恩党委員長が最近親書をやりとりしており、拉致問題解決の糸口となる日朝首脳会談の実現が期待されている。もし実現するなら開催地の有力候補としてウランバートルが挙がるだろうが、どうなるか?
「自由で開かれたインド太平洋戦略」
巨大経済圏構想「一帯一路」というビジョンを掲げて覇権を拡大する中国と、それを牽制する米国。他の国々は「一帯一路」に参加するのか否か、それぞれ選択を迫られている。
モンゴル政府は「一帯一路」に賛同の意志を示している。6月14日に第5回上海協力機構サミットがあり、それに伴って行われた中国・ロシア・モンゴルの首脳会談では三国間の協力強化が誓われた。上海協力機構においてモンゴルはこれまでのところオブザーバーの立場だが、いずれ正式加盟国になる日が来るかもしれない。上海協力機構は経済面のみならず軍事同盟の意味も持つ。
一方、6月1日に米国防総省が公表した55ページにわたる「インド太平洋戦略レポート」では、「自由で開かれたインド太平洋構想」実現のため、インド太平洋地域の国々との連携を米国が積極的に図ろうとしていることがわかる。この中で米国は、今後もっと防衛協力関係を強化していきたい4カ国として、シンガポール、台湾、ニュージーランド、そしてモンゴルを挙げている。
モンゴルについての記述は、以下の文から始まる。
「1996年以来、米国とモンゴルの防衛関係は意義深い発展を遂げてきた。モンゴルは米国を最も重要な“第3の隣国”かつ主要セキュリティ・パートナーだとみなしている。米国とモンゴルは、自由・民主主義・開かれた経済・世界的な人権の保護と促進という共通価値と戦略的関心を共有し、それに基づいたパートナーシップを保っている」。そして米国は、アフリカやアフガニスタンにおけるモンゴル軍の国連平和維持活動への貢献を評価し、モンゴルが近代的で専門的で自立した軍隊を保持していることを支持。米国とモンゴルは「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを共有しているとし、多国間機関へのモンゴルの地域協力とサポートが、インド太平洋地域の平和と安定と繁栄への貢献につながっていると終始肯定的に書いている。
このようにモンゴルは、中国・ロシア側からも、また米国側からも「味方」の立場を求められており、両者とのバランスを今後どう上手く取り続けていくのかが試される。
日本経済新聞によれば、6月23日にタイで東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開催され、独自の外交戦略「インド太平洋戦略」を採択して閉幕した。米国と中国が影響力拡大を競うインド太平洋地域において、ASEANが「中心的かつ戦略的な役割を果たす」と強調し、「対立の代わりに対話と協調のあるインド太平洋」を目指すと訴えたという。
G20の期間中は様々な組み合わせの首脳会談が行われる予定なので、この記事が掲載される頃には状況がまた大幅に変わっているはずだ。G20後の世界がどう動いていくか、要注目である。
フリーランスライター 大西夏奈子 Kanako Onishi
2019年6月