民主党の 組織化

Jargal Defacto
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THE DEMOCRATIC PARTY’S MONEY SACK

モンゴルでこの数日、民主党内の派閥争いが活発化している。これは民主党結党30年間の活動の結果と考えれば、いたって自然である。この派閥争いは、単にS.エルデネ氏とTs.トゥワーン氏の派閥の対立や、党大会をオンラインか対面で実施するかの違い、もしくは党内で誰の印章が有効かなどを争う問題ではない。これは、来年の大統領選挙にどの派閥から候補者が出馬するかについての争いである。

民主党は人権、自由、私的財産、自由市場など、民主主義の基本的価値から後退し、国民の信頼を失っている。価値観と指導者を失くした民主党の党員は、権力とカネに付き従うようになっている。まるで目的地を持たないトレーラーに牽かれるコンテナのように。

民主党の背嚢を開け、各問題を分析し、原因を特定し改善しなければ、モンゴル政府は徐々に弱体化し消滅する恐れがある。なぜならば、民主主義国家は、政治的に強力な野党がいなければ、溜め池の水のように腐敗する。

民主党の弱体化がこのまま続けば、モンゴル社会は第三の勢力が現れるのを待ち望むだけになり、一党による独裁がこれからの10年続く可能性が高い。政治は流れる川のようにあるべきで、指導者が入れ替わってこそガバナンスの透明性と説明責任、国民の自由と責任、豊かな生活、自由市場経済が機能するために必要な環境が整備される。

そのため民主党の問題は党員のみならず、すべてモンゴル国民の問題である。民主党のこの危機的状況をモンゴルの政党制度と政党自体の組織化といった2つの側面からみることができる。組織化(institutionalisation)とは、理念を組織、企業、社会システムに同化させることを言う。これが実現した時、その組織はトップが入れ替わっても長期において存続する。

組織化できない政党制度

モンゴルで組織化に成功した政党は、100年の歴史を持つ人民党だけである。民主党は30年の歴史を持っており、他の政党は更に歴史が浅い。モンゴルが多党制に移行して以降、民主党と人民党は交互に、もしくは連立して政権を握ってきた。しかし、直近2回の国政選挙において、人民党は圧勝した。国会76議席のうち前回は65議席を、今回は62議席を獲得した。現国会にモンゴル人民革命党、全国労働党はそれぞれ1議席ずつ持っている。

政党の組織化において、直面する最大の問題の1つは、モンゴルの選挙制度である。なぜならば、政権与党が民主化以降の30年間、選挙の度に選挙法を自分たちに有利になるように改正してきたからだ。この30年で8回の国政選挙のうち、7回の選挙で二大政党のうちどちらかが過半数を得て勝利してきた。2012年の国政選挙、この1度だけ比例代表並立制で行われ、小規模政党、連立、無所属が20議席を獲得した。

次に、政党の資金調達、つまり財源である。モンゴルの政党の財源は秘密にされており、公開情報は偽りの報告書をもとに出されている。政党の活動および選挙運動の収支を審査し、責任を追及するシステムが確立されていない。政党法は守られておらず、政党法を改正しようともしない。2005年の政党法には、政党が獲得した投票数に応じて1,000トゥグルグを1度、各議席に対して1,000万トゥグルグを年に1度交付し、またこの金額は物価等を考慮して変更されるという規定がある。

過去15年間、政党に対して数十億トゥグルグが交付されてきたが、政府がその詳細な報告書を公表したことは一度もない。過去にも人民党の党首が政府の役職に価格を付け、党員にその席を約束する形で総額600億トゥグルグの資金を調達したとする会話の録音データが公表されたことがあった。

国の予算を使い、政府機関を動員し選挙を行っているが政権与党に対して、政権を握っていない政党が挑んだところで勝負にならない状況となっている。政党に対して国の予算、つまり国民の血税を提供しているのであれば、政党にその使途について報告書を定期的に提出するよう求めるべきである。

例えばドイツでは、政党の資金の3分の1を国(残りの2分の1は党員の党費、もう2分の1は寄付金)が交付し、獲得した議席の他に党員数の増加分も考慮されるシステムとなっている。

経済的に高い成長を遂げた先進国では、途上国に比べて政党はより組織化している。ポスト社会主義10ヵ国を調査したところ、政党の組織化において最初の20年間は、殆どが資金の問題であった(F.Bertoa.2017)という結果が出ている。その典型例はルーマニアとウクライナであると指摘している。モンゴルがこの調査の対象となっていれば、この典型例に入っていたに違いない。

民主党の組織化

私は1990年2月18日にモンゴル労働組合文化宮殿において、モンゴル民主同盟の第1回大会議に出席し、個人的にメモをとった。モスクワ大学での学友だったS.ゾリグ氏が開会を宣言し、D.ソソルバラム氏は「政治演説」を行った。その演説では、「モンゴル民主同盟は社会主義を資本主義よりも良いシステムだとみている。だから生産性のみを高める必要がある。先進的な4県、2都市があり、産業の多様化を図る。マルクス主義を創造的に前進させる」などの内容が語られた。その6日後となる2月24日、モンゴル学生連盟は「モンゴル民主勢力」の第1回会議をモンゴル国立大学で開いた。この会議に新しい発展連盟、民主的社会主義運動、モンゴル民主同盟の3団体が参加した。私はこの会議の進行役を務め、記録をとっていた。民主同盟を代表してTs.エルベグドルジ氏(赤星新聞の記者、後のモンゴル大統領)、B.ジャルガルサイハン氏、バトスフ氏、トゥムルバートル氏らは、現政府の解散と連立政権樹立、人民特別委員会の設立を唱え、3月4日にスフバートル広場でのデモを皮切りに全国デモを呼びかけた。

民主党という政党は、モンゴル国民が数十年間切望していた政治勢力である。故に国民をリードし、民主革命を起こし、政権を取ってきた。しかし、今日の民主党は民主主義の価値観を失い、借金まみれとなり、自分たちの事務所さえも持たず、 資産家に付き纏うように漂流し、権力とカネという欲望の暗黒の流れに身を任せている。民主党は一等地にあった事務所を2箇所も売り飛ばしたというが、そのカネがどこへ消えたのかを党首さえも知らないという。ここまでの凋落を誰が知っていただろう?

民主党の最高意思決定機関は、国家政策委員会である。Z.エンフボルド氏が党首だった時代の党員数は228人、だが派閥が対立し党としての決定を出すことができなかった。2016年に新しい党則により、党の各委員会が競い合い党員が選出されるようになり、党員数は410人になった。また、新しい党則で党首は党員の中から選ばれるようになった。そして党首選に5人が立候補し、それぞれ2億5000万トゥグルグを党に納め、全国で党首戦が争われ、S.エルデネ氏が勝利し、党首となった。

民主党には正式な党員登録がないため、党費を支払う人が少ない。党首選5人の争いは、厳密に言えば最大投票数を獲得するというより、どれだけ多くの人に党員証明書を交付するかの争いだったという。民主党に入党する際は無料だが、階級が上がるにつれて党費が高くなる“劇場”になっている。「政治家を目指しているならば、自分の政治キャリアと活動に必要な資金力を持っていなければならない」と前党首S.エルデネ氏は言う。2020年の国政選挙に出馬する「チケット代」は1億トゥグルグと高騰し、これに90人が支払っていた。

民主党は、常にその組織構造を変えてきた。民主党はこのコロナ禍でのオンライン会議で、党則の改正を行った。「説明責任の制度を強化し、特に党首、選出された党員の説明責任について具体的に示された。また、党員は各党委員会の委員長、党首を選ぶ。国政選挙に出馬する立候補者選抜に投票する。そこで選ばれた党員は、その職務や専門分野においてリーダーシップを発揮し、社会に肯定的な影響力を持つ人材でなければならない。党の政策立案に若者や女性の参加を促す」と規定されているそうだ(O.アルタンゲレル:党則改正ワーキングチームのリーダー)。

リーダーシップ、責任、女性や若者の参加などといった政治の基本的価値は、やっと民主党の党則に盛り込まれたようだ。これまで民主党の党首は、党を自分の所有物のように、党員を道具のように見てきた。民主党の活動は、今や党幹部数人の利益のために風に飛ぶイラクサのようだ。現在の派閥争いも、表面上は一般の党員が正しい党則を要求しているが、実際はKh.バトトルガ現大統領を来年の選挙で再選させるかどうかのためのカネの闘いである。

政権与党と野党の理念は異なるべきものである。しかし、人民党と民主党の両方が左よりのポピュリスト党になっているため違いがない。また、両政党は全国的に知名度があり、国民に認められ、尊敬される指導者がいるべきである。しかし、民主党だけではなく、モンゴルに1990年以降、真の指導者は現れただろうか?自らが発する言葉と行動が一致し、個人的な利益を優先せず、腐敗や汚職に関与していない指導者はいただろうか?これらの現状を踏まえて、モンゴルの政党制度の中で民主党は組織化できずにいる。

政党とは、自由民主主義社会において不可欠な構成要素、市民が団結した団体、政権を任せることのできる半政府機関である。政党は世論に影響し、世論を代弁し、国民の希望を実現させる重要な“ツール”である。そのため、モンゴルの政党制度、すべての政党、特に民主党は必ず組織化し、普遍的価値を復活させなくてはならない。

20201228

日本語版制作:Mongol Izumi Garden LLC http//translate.mig.asia

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