正式に登記されている中小企業は、開発途上国の国内総生産(GDP)の40%、雇用の50%を占め、経済において重要な役割を果たす(世界銀行)。中小企業は、多くの雇用を創出することで貧困緩和に大きく貢献する。
2021年の時点では、モンゴルで事業を行っている企業の66%が中小企業であり、GDPの5.5%、輸出の2.4%、輸入の9.7%をそれぞれ占めている(国家統計局2021年)。NGO開発ソリューションは、アメリカの国際開発庁(USAID)の資金提供により、モンゴルにおける中小企業の参加がなぜこれほど少ないのか、また、中小企業の競争力はどのようなものなのかについて初めて調査し、報告書を発表した。
調査方法
モンゴルの中小企業の競争力は、国際貿易センター(ITC)の中小企業競争力マトリックス手法を用いて、「企業能力」、「ビジネスのエコシステム」、「マクロ環境」の3つの経済レベルと、「競争力」、「関連能力」、「変化適応力」の3つの要素で評価された(図1)。
図1.中小企業の競争力マトリックス
柱 | 基本的指数 | 経済レベル |
競争力 | 生産効率 資源管理 品質管理 | 企業能力 ビジネスのエコシステム マクロ環境 |
関連能力 | 消費者 供給者 研究所 | |
変化適応力 | 事業計画と財務 スキル イノベーション |
出典:国際貿易センター(2021b)
この調査には、全国21県とウランバートル市9区で事業を営み、正式に登記されている703社の中小企業が対象となった。これら企業の70%が首都ウランバートルに、30%が地方に所在している。売上規模別で見ると、58%が零細企業、24%が中小規模、18%が中企業であり、35%がサービス業、22%が卸売・小売業、12%が加工業、11%が建設業、10%が農業、9%がその他の分野で事業を行っている。要約すると、半数以上が零細かつ付加価値が低い販売・サービス業に属しており、これはモンゴルの中小企業の全体像と一致している。
国際貿易センターは、各国の競争力指数を一人当たりのGDPに関連づけて設定し(Parke and Wooldridge)、それをその国の中小企業の競争力マトリックス手法で比較する基準として用いている。図2におけるモンゴルの比較基準は44.2である。
図2.中小企業の競争力平均指数と一人当たりのGDPの相関関係
中小企業の競争力平均指数、モンゴル
一人当たりのGDP、2021年(国際ドル)
出典:国際貿易センター(2021b)の情報に基づいて出した研究者等の計算
この基準の60%以上の場合は強い、60%以下の場合は弱いとされる(図3)
図3.競争力の比較基準
比較基準より
― 弱い ― 下回る ― 上回る ― 強い
結果
調査の全体指数(表1)から次のことが見えてくる。
企業能力:関連能力は比較基準を下回り、競争力・変化適応力はそれよりも低く、零細企業の関連能力が弱い。
ビジネスのエコシステム:競争力・変化適応力は、比較基準を上回り、関連能力は比較基準を下回っている。
マクロ環境:競争力は比較基準を下回り、変化適応力が良好で強いと評価されている。
これら3つの経済レベルで「変化適応力」は、他の2つの能力より高くなっている。
表1.中小企業の競争力マトリックス概要
平均点数(0-100) | 指数 | 競争力 | 関連能力 | 変化適応力 | |
企業能力 | 全体 | 48.7 | 49.7 | 42.9 | 53.3 |
零細企業 | 44.1 | 46.3 | 38.4 | 47.5 | |
中小企業 | 52.1 | 52.6 | 47.0 | 56.8 | |
中企業 | 58.3 | 56.8 | 51.7 | 66.5 | |
ビジネスのエコシステム | 52.2 | 56.6 | 42.9 | 57.0 | |
マクロ環境 | 57.9 | 39.2 | 57.1 | 77.4 | |
比較基準:44.5 | |||||
弱い基準:£26.5点 | 強い基準:³70.7点 |
能力の基本的な指数レベル(表2)からは次のことが見えてくる。
競争力:ビジネスの規模に関係なく、中小企業は国内または国際的な品質証明書を受け取ることはほとんどない。しかし、資源管理と生産効率は比較基準を上回り、中企業の場合は資源管理が強い。
関連能力:消費者と研究所の2つは、比較基準を下回っており、中小企業は消費者と効果的な関係を築き、消費者情報を活用することにあまり力を入れていない。特に零細企業、中小企業にその傾向が強い。
また、規模を問わず組織として事業を強化することや、業界団体や専門機関との連携が弱い。
変化適応力:比較基準より上回っているが、イノベーション評価が比較的に低い。特に零細企業はその傾向にある。中企業の場合は、優秀な人材が数多くいる。
表2.中小企業の競争力マトリックスの概要と基本的指数の基準
柱 | 基本指数 | 企業能力 | ビジネスのエコシステム | マクロ環境 | |||
全体 | 零細 | 中小 | 中企業 | ||||
競争力 | 生産効率 | 56.4 | 54.9 | 57.7 | 59.9 | 55.2 | 49.3 |
資源管理 | 65.3 | 62.3 | 67.0 | 72.6 | 68.7 | 25.0 | |
品質管理 | 27.5 | 21.7 | 33.2 | 38 | 45.9 | 31.3 | |
関連能力 | 消費者 | 33.9 | 28.2 | 37.9 | 46.4 | 41.0 | 51.3 |
供給者 | 58.8 | 54.0 | 63.6 | 67.8 | 40.2 | 68.9 | |
研究所 | 36.1 | 32.9 | 39.6 | 41.1 | 47.5 | 62.6 | |
変化適応力 | 事業計画と財務 | 54.9 | 48.6 | 60.1 | 67.8 | 68.3 | 76.8 |
スキル | 59.6 | 54.6 | 61.4 | 72.9 | 53.2 | 85.6 | |
イノベーション | 45.3 | 39.4 | 49.0 | 58.7 | 49.5 | 73.7 | |
比較基準:44.2 | |||||||
弱い基準:£26.5点 | 強い基準:³70.7点 |
この調査報告書では、マトリックスの縦軸と横軸で交差するすべての指数がどのように出されたのか、そしてなぜそうなるのかについて詳しく説明されている。例えば、企業の変化適応力は、財務、優秀な人材、イノベーション開発などの指標に焦点を当て、3つの経済レベルで評価されている。
多くの中小企業にとって、財務アクセスが改善され、優秀な人材はある程度確保されているものの、彼らの能力向上や継続的な訓練において努力する必要がある。またある分野においては、能力のある人材の確保と主要な教育機関のアクセスビリティや質の向上に注意を払う必要がある。
企業レベルでは、イノベーション開発に一定の取り組みが行われているが、実績が伴っていない、あるいは成果の定着化が不十分である。さらに、ビジネス環境においては、イノベーション開発において専門機関および企業間の協力関係や連携があまり構築されていない。
この報告書の各データを詳細に見ることは、中小企業事業者、専門組合および政府の政策立案者や実施者にとって間違いなく大きく役に立つだろう。
2024年10月24日■