平成生まれの起業家が挑むモンゴルレザー産業

Kanako Onishi
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2019年5月1日、元号が令和に変わった。1989年に始まった平成時代の30年間は、モンゴルが民主化への道を歩み出し、日本との友好関係を前向きに発展させていった時代そのものだった。この間、世界中でインターネットが普及してグローバル化が進み、経済面においても日常生活面においても大変革が起きた。

アナログで作り、デジタルで魅せる

 平成生まれの若い起業家たちが、今モンゴルで奮闘している。ラズホールディングス株式会社代表取締役の戸田貴久氏が運営するファッションブランド「HushTug(ハッシュタグ)」は、モンゴルの牛革を日本の技術を用いて高品質のバッグに加工し、クラウドファンディングを利用して低価格で予約販売するというビジネスモデルで注目を集めている。製品は現地法人代表の川田大貴氏の指導のもと、ウランバートル市内の工房にてモンゴル人の職人が手作業で生産している。

 本革バッグの販売プロジェクトをクラウドファンディングでこれまで2度実施し、どちらも成功した。1度目は目標金額50万円に対し、集まった支援額が280万9,800円(達成率561%、支援者数205人、実施期間2018/10/27〜2018/11/30)。2度目は目標金額100万円に対し、支援額が118万8,820円だった(達成率118%、支援者数65人、実施期間2019/3/20〜2019/4/28)。

 5月後半頃には3度目のプロジェクトが始動予定で、アスリートからのリクエストで開発した新製品の本革リュックが登場する。それとは別にリアル店舗で販売する試みも始まっており、今年春には東京の池袋PARCOと吉祥寺PARCOで期間限定ポップアップストアを展開した。  

カントリーリスクは考えない

 そもそもなぜモンゴルで事業を立ち上げたのか? 戸田氏は出身地である鳥取県の地方銀行に1年勤めたのち、ビジネスの可能性をもっと広げたいと考え上京。東京で知人の会社を手伝いながら自身でも起業し、営業代行やWeb広告関連の事業を行った。順調に収益を出していたものの、燃えるようなやりがいを感じられず気持ちをくすぶらせていた矢先、肉のハナマサ創業者の小野博氏との出会いがきっかけで2017年にモンゴルを初訪問。直感的に「面白そう、中小企業が入りやすい国だ」と感じて移住した。カントリーリスクは全く気にならなかったという。

 移住後はウランバートルで複数の事業を手がけたが、次第にモンゴルレザーの可能性に惹かれていった。通訳担当者がレザー商品を個人販売していたのを見て、その価格の安さに驚いたのがきっかけだ。一方で、モンゴルで売られている革製品は品質やデザインが物足りないと思えるものが多く、豊かな皮資源を活かせていないという印象を持った。

 モンゴルの厳しい自然で育った家畜からとれる皮は丈夫で、イタリアやスペインの高級バッグや高級車のシートとしても利用されているが、モンゴル国内の皮の加工技術がまだ高くなく、基本的にウェットブルーと呼ばれる状態(原料の一形態)で輸出されている。すると例えばイタリアで製品化された場合、商品には「made in Italy」のタグがつけられるため、モンゴルレザーの価値が一般には知られないままだ。

 そのような現状を知り、「日本の技術を取り入れて世界に通用するクオリティの革製品を作ることができれば、モンゴルレザーの可能性は一気に広がるのではないか?」と戸田氏は考えた。さらにモンゴルで暮らす中で、大気汚染や貧困の社会問題に直面し、雇用がもっと増えることの必要性を痛感。レザー産業で事業を起こそうとモンゴルで革職人を探し始めたものの、「日本人と組むと細かくて面倒くさいから」と断られ続け、ようやく現在のパートナーである職人夫婦と出会えた。 

クラウドファンディングの工夫

「クラウドファンディングを実際に行う前は、これほど支援していただけるとは正直予想していませんでした」と戸田氏。HushTugの本革ビジネスバッグは消費税・送料込みで18,360円。価格は手頃だが、革製品の良さは手で触ってみないとわかりにくい。しかしHushTugのクラウドファンディングページは掲載されている写真と動画のクオリティが高く、製品もきっと洗練されているに違いないと期待させられる。また原価の内訳を1円単位まで公開したり、100日間返品・交換無料保証を設けるなど、支援者が安心かつ満足できるよう攻めた工夫もされている。

「クラウドファンディングを利用する目的は、資金繰りが楽になることももちろん大事ですが、一番はブランドの認知度を上げるマーケティングのためです。また、卸を介さずお客様にお届けできるので、コストパフォーマンスを高く保つことができます」(戸田氏)。

 年内には韓国と台湾とアメリカでも現地のクラウドファンディングを通じて販売予定で、その先には中国進出も目指している。今後は投資家を探して規模を拡大していき、将来的に日本国内での上場も見据えている。

EPAの影響は?

 HushTugがモンゴルで製作した本革バッグを日本へ輸出する際、現状では6〜12%の関税がかかっているという(ファスナーなど付随する部品の条件などで税率がその都度変わる)。現在の日本モンゴルEPAでは、加工前の皮であれば無税になるが、加工後の本革バッグは課税対象になる。ちなみにインドネシアなど一部の国の場合、日本へ本革バッグを輸出する際はEPAにより無税となる。モンゴル政府はレザーの輸出に力を入れていきたいという意向を述べているので、日本モンゴルEPAでも加工後の革製品が無税扱いになるよう、今後のルール変更に期待したい。

 2019年4月、食糧・農牧業・軽工業省において、山口産業株式会社(山口明宏代表取締役社長、東京墨田区)のラセッテーなめし技法(従来の重金属系薬品ではなく、自然にやさしい植物由来のタンニンを用いる独自のなめし製法)をモンゴルの革工場へ提供してモンゴルレザーをブランド化するというJICA調査団主催プロジェクトの基礎調査覚書署名式が行われた。このプロジェクトでなめし技術が提供されるモンゴルの革工場は、HushTugがバッグの原料を調達する革工場でもある。近い将来、なめしの段階と革製品に加工する段階で共に日本の技術が入り、良質なモンゴルレザーブランドとして世界で広く販売される日が来れば素晴らしい。

フリーライター 大西夏奈子 Kanako Onishi

2019年4月

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