MONGOLIA’S THREE WEAK PILLARS
国家の発展、そして国民が豊かで幸福に暮らすための礎となる民主主義体制、それを保障するのが法制度、自由市場、正義である。この法制度、自由市場、正義という三本柱が確立され、更に強化されなければならない。モンゴルが民主的な独立国家となって以来30年の間に、この三本柱をどの水準まで高めてきたのか。今、モンゴルはどの様な問題や試練に直面しているのだろうか。
法制度
高度経済成長を遂げた国々は、民主主義の下で選挙によって政府を選択し、また有権者は選挙で政府が行った政策を評価する。与党は公約を果たし、結果として国民の生活に良い影響をもたらせば再び選挙で選ばれるが、そうでなければ他の政党が政権を取ることとなる。
与党となった政党は、法律を作成・制定し、それを行政が効率的に運用し、経済が発展する機会を提供する。しかし、モンゴルは法律を作成する能力が不十分である。政権に就いた政党は将来を見据えることなく、4年に一度の選挙に合わせて法律を立案し、可決成立させてきた。その最たる例は選挙法改正である。政権与党は選挙法の改正を4年毎の国政選挙の前に行ってきた。
また、法律を自分たちの利益に資するように作っている。例えば、公共財産を横領した者のために犯罪の時効を有利に定める法律を成立させ、多くの犯罪を無効にしてしまった。政治家や官僚は(自分たちが作った)法を使い国有企業や銀行を設立し、それらを通じて国有財産を横領してきた。しかも様々な名前の恩赦法を可決成立させ、資金洗浄まで行うようになった。「経済の透明化促進に関する法」という立派な名前の法律を可決成立させた。そして2016年にモンゴル政府は海外からこれまでにない多額のドル建て融資を受けた。その後、その資金を横領して姿を消した者、資金で不正を働く者の出現を許してしまった。この法律は、モンゴル経済よりも大きい3兆3千億トゥグルグの資産を企業や個人が持つことに至った。その資金で今日ウランバートル近郊には多くのビル群が建設されている。
政権を交互に握ってきた二大政党(人民党・民主党)は、正確な政党の資金収支報告書を公表したことがない。法律に定められている通り、国民に公開してこなかった。だから、モンゴル政府は一握りの権力者たちの手足となってしまった。政府が、その役職を商品のように売買するということが常態化した。
モンゴルの法制度は弱体化している。
自由市場
人類の長い歴史の中で、自由市場のみが最も多くのモノを生み出した。自由市場が機能するための基本的条件は私有財産である。共産主義は私有財産を認めず公有財産のみが認められる社会だったので、経済は完全に破綻した。
共産主義体制から離脱して以降、モンゴルは私有財産を確立させようと努力してきた。市場経済へと移行したこの30年の間に、モンゴル史上最も多くの富、私有財産をもつようになった。そして経済は何倍にも成長し、国民の生活は豊かになり、人々の平均寿命は10年も長くなった。人口は50%、家畜は250%増加した。
モンゴル政府はそれまで国有とされていた様々な企業・工場を国民に、また各県で農牧業協同組合が所有していた家畜を遊牧民にその所有権を移し、民営化を進めた。その結果、30年間で家畜頭数は2.5倍となる6,600万頭にまで増加した。羊は2倍の3,000万頭、山羊は5.3倍の2,700万頭になった。
集合住宅もそこに住んでいた住人に所有権を移した。土地は国ではなく国民の所有にした。そして国民は自由にビジネスを営むようになり、自分たちの工場や農業地、建物を所有するようになった。だが公共の財産、特に土地に関して言うと、県知事、市長、省庁の官僚が私用目的で多くを横領した。典型的な例はウランバートル市の南部にある山地、ヤールマグ地区、ウランバートル市内の中心にある土地の所有権を自分たちのためだけに交付したことである。
モンゴルでは違法に私有財産を築くことが絶えない。
正義
正義を確立させることは司法の義務である。法制度と自由市場という2つの現状を見ると、モンゴルの司法制度が完全に破綻していることを証明している。正義とは、法律に違反した者の責任を追及することからはじまる。モンゴルの司法機関は、賄賂を受け取った政治家や政府職員に対して責任追及を行うことができていない。だから、モンゴルはマネーロンダリング対策やテロ資金対策を行う国際組織である金融活動作業部会(FATF)の「グレーリスト」に入るかどうかという状況にまで追い込まれている。
裁判は1人の人間(とりわけ大統領)に左右されるようになったため、政府は構造改革を推し進めようとしている。腐敗の深刻度が増し、モンゴルは今世紀になって初めて憲法を改正しようとしている。いくら構造改革や憲法改正を行っても法律を守らせることができなければ、この国は貧困から脱出することはできない。
モンゴルの貧困の原因は、経済ではなく政治危機によるものである。政治家になることが富を得ることになったため、国民は政治家や役人になるために政治化し、政党という名の下で分裂し、互いに罵り合うことが常態化している。夫婦でさえ政治化し、それが原因で離婚にまで発展する。
これらは個人の発達にも関係している。現在のモンゴルの教育制度は、子どもを良い人間に育てることより、知識を身につけさせることを目的としている。モンゴル人には協力すること、公共の利益を守ろうとするモラルが欠けている。
モンゴルでは正義が置き去りにされている。
結論として、モンゴルは発展と繁栄の三本柱を強化していない。そのため、これまで果たしてきた数多くの成功、そしてそこから得られた成果を国民が平等に享受できていない。この弱体化している三本柱を強化することが、今のモンゴルにとって最優先課題となっている。
2019年7月17日
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