黒死病の時代の饗宴 モンゴルのマドゥロ

Jargal Defacto
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A FEAST IN TIME OF PLAGUE AND MONGOLIAN MADURO

新型コロナウイルスの感染拡大は世界200ヵ国に及び、536,000人の感染が確認されている。感染者のうち、24,000人が死亡し、124,000人が回復している。ウイルスの感染拡大の勢いはアジア地域において減少し、ヨーロッパや北米で急増している。ウイルスの感染防止や対応策がしっかりできている国々では、感染拡大は比較的に抑制できている。しかし、感染防止のための準備をしてこなかった国々では、数千人単位で国民の命が奪われ、厳しい試練に直面している。モンゴルは、新型コロナウイルスが中国で確認された当初から感染防止の対応策をとってきたため感染者は確認されなかった。しかし今日、ヨーロッパから帰国して隔離された人たちの中から11人の感染が確認されている。現在、モンゴル北部の2つの国境検問所や首都ウランバートルで2,000人が2週間の隔離措置を受けている。また現在、国境が封鎖されている影響で、外国に滞在している数千人のモンゴル人がどのように帰国できるかも検討されている。

モンゴルは国家緊急事態を宣言した。検疫体制を強化し、航空便、鉄道などの交通手段を制限し、ザハ(市場)やサービスセンターに対して、営業時間を短縮するように指示している。また、すべての学校を4月30日まで休校とし、授業はオンラインで実施している。今年に入り2ヵ月半の間、石炭輸出が停止した。企業は社員に対して有給・無給の休暇を与え、一部は在宅で仕事をしている。モンゴル商工会議所の調査によれば、この措置で企業全体の3分の2が減収となった。企業の約半数が事業活動を停止し、3分の1は社員の解雇を実施したという。国の収入は約10%落ち込み、貿易高は減少、経済成長率は下がっている。

モンゴルは、新型コロナウイルスと闘うことと並行して、エコノウイルスとも効率的かつ責任を持って闘う必要がある。特別な緊急事態は、特別な緊急対策を必要とする。だが実際はどうだろうか?

軟弱な金融政策

経済の活性化が弱まり、成長が低迷している。このような状況の中では、各国はまず金融緩和策を取り、市場に出回る通貨量を増やすことがセオリーである。モンゴル銀行(中央銀行)は政策金利を1%引き下げて10%にし、商業銀行に義務付けるトゥグルグでの準備金率を2%引き下げ8.5%にした。経済が正常で、成長している場合は、この金融政策の効果が半年後に現れる。しかし、現在のモンゴルの状況では、緊急事態がいつ終わり、需要が増加するかが不明である。この様な状況下では、あえて高金利の融資を受ける企業はない。そのため、今回の中央銀行の金融政策が経済に及ぼす影響はかなり限定的だ。

この状況では、財政政策を拡大しなければならない。景気後退(recession:ここではGDPが2四半期連続してマイナス成長となることをいう)にならないために財政支出を増やす必要がある。もし、景気後退が続き不況となれば(depression:所得が急減し、失業率が増加することをいう)、次にやってくるのは金融や経済の危機だ。そのため、モンゴルは少なくとも財政支出を削減せず、支出と投資先を見直さなくてはならない。

しかし、Ch.フレルバートル財務大臣は予算の補正をしないと何度も発表している。政府が予算の補正を避けている理由の1つは、もともと政府は2020年度の予算として歳入11兆7千億トゥグルグ、歳出13兆8千億トゥグルグで2兆トゥグルグの赤字予算を可決成立していたことが挙げられる。現在、政府収入が減っているにも関わらず、支出を拡大すれば財政赤字は更に増大する。唯一のリソースとなる「将来基金」に積み立てた6,200億トゥグルグでは、財政赤字を補填するには十分ではない。

もう1つの理由は、3ヵ月後に実施される国政選挙である。国会議員は、自分たちの選挙区に「水を引く」ことを望んでいる。つまり、国からの交付金が止まることを望まない。モンゴル政府は首相以外の閣僚全員が国会議員である。そのため、U.フレルスフ内閣は、予算の補正を避けているのだ。

しかし、今起きている新型コロナウイルス感染症対策には今後も財政出動が必須である。現状、モンゴル政府には世界銀行やアジア開発銀行など、外国の開発機関に融資や支援を頼る他に選択肢が残されていない。GDPに比較して国債発行額は2016年に90%だったが、現在は72%まで減少している。しかし、政府が国際市場に追加で国債を発行する可能性は低い。国の外貨準備高はマイナスだったが、現在は45億ドルのプラスとなった。こういった材料は融資や支援を受けられる可能性を高めている。もし、融資や支援を受けられれば、その資金を何に、どのように使うかで、モンゴルの景気後退の速度に大きく影響する。

重要なのは雇用であり、国会の議席ではない

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、各国を覆っている「エコノウイルス」は、雇用の需要と供給の両方を萎縮させている。持病のある人や小規模事業者が自宅にいることで、雇用は減退している。需要を促進することができない状況なので、せめて失業をさらに拡大させないために政府は緊急措置を取らなければならない。加えて、貧困層、低所得世帯の生活を保障しなければならない。そのため経済対策として、一部の国の政府は給与を国から交付する(ドイツ)、国民全員に現金を給付する(香港、オーストラリア、カナダ)などの措置が取られている。各国は今回の新型コロナウイルス感染拡大は、アジアでは今年の第3四半期、その他の地域では第4四半期から収束に向かうと予測している。

しかし、モンゴル政府は雇用を維持する方法を探り、国民や事業者に対して税やローンの免除、支援金の給付などの金融支援を実施しようとすらしない。それどころか2020年の国政選挙シンドロームに突入してしまった。現政権与党の政治家たちは、選挙を予定通り6月24日に実施することが、選挙を延期するより自分たちにとって有利になると考えているようだ。なぜなら選挙が延期されると、今後景気が後退局面に入ってから投票が行われることとなり、それを避けたい意図があるからだ。実は最も賢明な解決策は、感染拡大の時はせめて選挙を数ヶ月延期し、その選挙費用で経済を支援することである。

一昨日、各政党はマニフェストを監察庁に提出した。政権与党である人民党は、社会保険料を納めるすべての人に住宅を提供し、貸出金利を引き下げることを公約に掲げている。民主党は、全世帯の平均所得を300万トゥグルグに引き上げ、国民は自分たちで住宅を持つようになるという公約を掲げている。「あなたと私たちの連合」(人民革命党、国民勇気緑党、モンゴル伝統統一党)は、国民の平均給与を500万トゥグルグに引き上げるという公約を掲げている。モンゴルではこのように政府をオークションにかけている。本来、民主主義で自由市場経済の国では、平均給与は政治家ではなく、労働生産と需要と供給から自然に決まるものである。

各政党が給与、現金、株式を選挙公約にすれば、その無謀な公約を果たすために大規模な融資を受け、国を借金まみれにする。2008年の国政選挙では、民主党は鉱物資源の恩恵として国民全員に100万トゥグルグの株式を保有させることを公約にした。人民党(当時の人民革命党)は国の恩恵150万トゥグルグを国民全員に給付すると公約にした。そして選挙後にこの2党は連立政権を組み、国有企業であるタバントルゴイ社に外国から多額の融資を受けさせ、集めた資金を国民に配った。その時の借金を国家予算、つまり納税者の税金で返済してきた。

世界中で新型コロナウイルス感染拡大、死と困難が叫ばれている状況の中、モンゴルでは政治家が国会の議席を争うためだけの準備をしている。モンゴルに「黒死病の時代の饗宴」(Пир во время чумы:アレクサンドル・プーシキンの戯曲、1830年)が到来している。

2020年3月25日

日本語版制作:Mongol Izumi Garden LLC http//translate.mig.asia

POST SCRIPTUM(追伸)

この記事を書き上げ、ちょうど印刷に回す時にKh.バトトルガ大統領が国民に対して呼びかけを行った。大統領は、新型コロナウイルス感染拡大を現実的に評価し、6つの提案を国民に受け入れるよう呼び掛けた。最初の5つの提案はとても重要であり、私が執筆した今回の記事にも通じる内容が記述されている。しかし、「政権を集中させる」という6つ目の提案に関して、私は全く賛同できない。

新型コロナウイルスの対策措置を政府は積極的に実施しているのと同様に、エコノウイルスにも積極的に対策も講じ、大統領が提案した最初の5つの措置を政府は実施できると信じている。しかし、それらを実施する意気を消沈させ、政府を2つに分断しないように大統領にお願いしたい。「あなた」は新年の挨拶で、すべての年金担保ローンの返済を帳消しにした。政府に圧力をかけ、モンゴル開発銀行に鉱山の鉱物資源を担保にした債券を発行させた。これは経済危機を招き、国債を返済するのではなく、増大させている。その年金担保ローンを帳消しにするために拠出した7,700億トゥグルグを、この新型コロナウイルス対策のために回せば、多くの雇用を維持できたことでしょう。

モンゴルの行政権のトップは首相であり、大統領ではないことをあなたに忠告する時が来たようだ。大統領は鉄道を建設し、郡を開発し、衛星都市を作る主役ではない。これらは政府(内閣)が行うことであり、政府に政府の仕事を任せるように大統領に進言する。また、ロシアの石油最大手ロスネフチ社から受けた千万ドルの寄付金の報告書を有権者に公開することを求める。監査報告書も一緒に。民主主義国の国民である私たちは、大統領に日常の業務を外国の資金でやってもらいたくない。

あなたは困難な時こそ協力し、団結するように国民に呼び掛けている。大統領はモンゴル国民の団結の象徴であるが、今は自ら団結を強化するように逆に国民があなたに呼び掛けている。あなたが最後まで戦うと公約した腐敗は、撲滅するどころか一層拡大している。あなたが大統領になって以降、腐敗と闘う劇の一部の主役が変わっただけで、劇はそのまま続いている。大規模なプロジェクトは秘密裏に実施されるようになっている。

大統領であるあなたが行政権の権力闘争に参加しないよう助言したい。

ベネズエラでは、大統領が経済の緊急時体制を宣言し、国会を無効にし、すべての権力を大統領に集中させた。それから20年後、世界最大の石油埋蔵量を誇る国の国民は貧困に陥り、トイレットペーパーもなく、食料もなく、お互いのものを奪い合っている。

モンゴルは議院内閣制の体制を持つ国である。そのため、唯一絶対の指導者を持つ隣国とは異なっている。議院内閣制の国であるということは、1人の人間ではなく、国民全員が決定を出すものだ。これはモンゴルの独立を保障しているものである。

国政選挙は、新型コロナウイルス感染拡大が深刻化している今ではなく、収束するであろう9月に実施して前進していくことが妥当である。

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