開発銀行があれば国の発展が加速すると騒いでいたのはつい最近である。しかし、10年の月日が経ち、政府は開発銀行をどうすればよいのかと途方に暮れている。それはあたかも、演奏もできないのに高価なスタインウェイのグランドピアノをローンで購入し、優秀なピアノ講師を招いても、一曲も満足に弾けるようにならなかったかのようだ。そうしてピアノ講師を追い出し、弾けもしない鍵盤を悪戯に叩き、舞台の隅に放っておいた「開発」というピアノをどうするのか?
開発銀行のバブル
2010年7月20日、当時のSu.バトボルド首相は、大規模な開発プロジェクトを支援することを目的に国有開発銀行を設立する政府決定を発表した。その半年後、この開発銀行に関する法律が可決成立し、2011年5月12日付でモンゴル国開発銀行は正式に活動を開始した。
2011年8月30日、韓国の開発銀行と協定を結び、韓国開発銀行から5人の専門家がモンゴルの開発銀行に出向した。彼らが出向した4年間、モンゴル開発銀行は報酬を払っていない。そして開発銀行の頭取にキム・ジャン・ジンが任命された。
2011年11月30日、開発銀行は2,000万ドルの債券を非公開で発行した。つづく2012年3月には金利5.75%、5億8000万ドルの債券を国際市場に発行した。2012年6月の国政選挙で民主党が勝利し、政権に就いたN.アルタンホヤグ首相は「開発銀行の活動が軌道に乗ってきたため」という理由で、2013年5月25日、韓国開発銀行との協定を解除した。
開発銀行には資産があり、政府はチンギス債券により集めた15億ドルの使い道に具体的な計画も計算もなかったため、債券の金利だけで毎月600万ドルを半年間無駄に返済していた。これほどの大金を政治的な方法で、政治家が分け合うことについて、企業ガバナンスや法律の観点から反対していた韓国人専門家たちが邪魔になっていたということだ。
2012年、政府は経済開発省を設立した。同省の大臣だったN.バトバヤル氏は、チンギス国債とサムライ国債の発行、運用する上で、職権乱用や公的資金の不正流用があったとして刑事事件として立件された。しかし、時効を迎えたとして、つい最近無罪放免となった。
また、開発銀行の頭取だったN.ムンフバト氏は、職権乱用罪で長年取り調べを受け、ようやく起訴されることとなった。
2014年、Ch.サイハンビレグ首相は、経済開発省を廃止し、代わりに産業省を設立した。産業省の大臣だったD.エルデネバト氏は、ロシアとモンゴルの合弁企業だったエルデネト鉱業のロシア政府が保有していた49%の株式をモンゴル政府として購入を拒否し、モンゴルカッパー社に優先権を与えたという罪に問われ、懲役4年6か月の判決を受け、服役している。
2016年の国政選挙で人民党が勝利し政権が交代した。新政権は産業省を廃止し、開発銀行を内閣官房に移管した。2020年4月には開発銀行を財務省の管轄に移し、代表取締役、経営幹部を入れ替えた。頭取には前財務省政府基金課長N.ムンフスフ氏、代表取締役会長に財務省事務次官S.ナランツォグト氏がそれぞれ任命された。前頭取G.アマルトゥブシン氏は、2020年の国政選挙に出馬するために前年に辞任していた。副頭取のCh.エンフバト氏が解任され、法執行機関が取り調べをはじめている。
本来ならばモンゴルの長期成長計画が作成され、その資金調達は開発銀行が行うものである。しかし、その開発銀行を管理する政府機関はいまだに決まっていない。
不良債権の罠
2020年第3四半期の時点で、開発銀行には4兆3000億トゥグルグの資産があり、その77%が債権である。この債権のおよそ半分が不良債権となっている。モンゴル銀行(中央銀行)の規定では、リスクファンドに1兆3000億トゥグルグを積み立てなければならない。しかし開発銀行がリスクファンドに積み立てている額は、4,770億トゥグルグにすぎない。不足分は、開発銀行のオーナーが所有しているQSC社の2,040億トゥグルグ、Khutul社の2,680億トゥグルグ(これはエルデネト鉱業の株式49%の買収に使われたと言われている)、政府住宅コーポレーションの2,040億トゥグルグ、Erel社の1,150億トゥグルグ、Beren社の540億トゥグルグなど、約40社への1,000日以上返済がない貸付8,440億トゥグルグである。
開発銀行の自己資本は1兆1000億トゥグルグ、債券債務は2兆4000億トゥグルグ、対外債務は7,930億トゥグルグとなっている。もし、モンゴル銀行の規定通りにリスクファンドへ積み立てると、開発銀行は技術的デフォルト(technical default)することになる。そのため、何らかの方法でモンゴル銀行と合意し、リスクファンドへの積立金を免れている。これについて監査報告書が数ヵ月後に出ることを期待する。このような状況であるためなのか、開発銀行の新しい頭取や代表取締役は、ホームページに自分たちの顔写真を掲載せず隠れている。
開発銀行が持つ債権、とりわけ政治家が関与している多額の融資は、返済が滞り、裁判所で何年も審理されている。裁判の度に印紙税として数十億トゥグルグの費用が開発銀行から支払われている。開発銀行の債権担保の16%がライセンス、23%が不動産、54%が将来得られる収入、7%が機械設備である。まるで開発銀行は商業銀行のようである。この実態は、次から次へとすげ替えられてきた経営幹部が政治から影響を受け、韓国人がいなくなった後に企業のガバナンスをないがしろにし、経営を悪化させたことを示している。
ピアノを奏でる時
どの国でも、開発銀行とは長期プロジェクトに資金を提供する機関であり、その管理は、特定の政府機関によって安定的で、透明でなければならない。企業の良いガバナンスを維持できれば、インフラなどの大規模プロジェクトに低金利の外国資金を提供し、経済発展の基盤を築くことができるということを、韓国の開発銀行の事例から見ることができる。
モンゴルでは、開発銀行を管理する政府機関が存在せず、そのため開発銀行の事業は安定していない。2011年の開発銀行に関する法律は、国際通貨基金(IMF)の要請を受け2017年に改定され、予算融資の提供が停止された。
開発銀行は、今日の停滞状況から脱出するために、まずリスクファンドの積立金を増やことだ。また、資本金を増やし、政府は開発銀行を管理する機関を設立すること(国家開発庁など)。そしてすべての活動が透明かつ政治から独立していなければならない。しかし、監査権は国会に持たせることが適切である。これらの措置を迅速に取らなければ、開発銀行は対外債務の返済ができなくなる。
開発銀行は、2021年に債務および金利に1億400万ドル、2022年に1億700万ドル、2023年に8億3400万ドルを返済しなければならない。もし、開発銀行がこれらの債務を履行できなければ、保証を発行した政府が責任を負うこととなる。つまり、政府の対外債務はまた10億ドル増えるということである。
もし開発銀行の不良債権を片付け、良いガバナンスを構築できれば、今計画しているタバントルゴイ発電所の建設、その他の大きなプロジェクトに低金利の外国資金を呼び込める可能性がある。新型コロナウイルス感染のため、世界金融市場の金利はほぼゼロになっている今、モンゴル政府は賢明に取り組み、開発銀行の構造を立て直すチャンスだと思う。
2020年11月25
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