人類は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大(パンデミック)とおよそ2年間も戦ってきた。だがその戦いは今も続いている。現在(2021年8月26日)世界中の感染者数は2億1500万人、死亡者数は450万人に上っている。多くの国で社会や経済が困難な状況になり、発展途上国は絶望し、一部の国はコロナウイルスの前にひざまずいている。モンゴルでは、20万2000人が感染し、919人が死亡している。
世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大するにしたがって、多くの国では社会・経済のデジタル化が加速し、グローバリゼーションが減速し、それまでの地政学的戦略が激変している。各国はこれらの3つの主要な動きに適応し、習慣を変え、政府の政策を調整している。
モンゴルは2020年2月から国境を封鎖したため、その後の10ヶ月間は国内での感染は確認されなかった。この期間に先進国ではワクチンの開発、試験、製造が始まった。これは新型コロナウイルス感染拡大との闘いにおいて、モンゴルにとっては有利な点となった。2020年から相次いで施行された厳しい外出制限によって、モンゴル経済は停滞した。GDPは過去30年間に無かったほど減少し、2020年の成長率はマイナス5.3%となった。
2021年1月、L.オユン・エルデネの内閣が発足し、「健康を守り、経済を復活させる10兆総合計画」が発表された。保健、経済という2つの分野で行われているこの戦いにおいて、モンゴルはどの様な結果を出したのか?そして何に注意すべきなのか?
医療分野
今日まで、モンゴルは560万回分のワクチンを輸入しており、その73%が購入したものである。全人口の68%が1回目接種を受けており、63%は2回目の接種を受けている。モンゴルのワクチン接種率の高さは、世界でも上位15ヵ国に入っている。国立伝染病研究センターの調査によれば、ワクチンは感染を75%、死亡を93%予防できている。そのため、人口の6%が感染し、そのうちの0.5%が死亡しているというこの数字は、世界平均に比べて5分1と低くなっている。死亡者の80%はワクチン接種を受けていない、もしくは1回目の接種を終えた人々だった。感染拡大は収まらない状況ではあるが、モンゴルは人口が少なく、迅速なワクチン接種ができた結果として、感染者の症状が軽く、治癒も早くなっている。これについて、モンゴルの保健分野、医療従事者が懸命に尽力し、重要な役割を果たしているといえる。国家非常事態委員会は、人口の70%がワクチン接種を完了すれば、「集団免疫」が構築されると発表している。
教育分野にも新型コロナウイルスの感染拡大がおおきく影響してきた。国民の不満が高まり、2年近く中断していた教室での対面授業が、この9月1日から再開される。既に12~17歳の子どもの82%が1回目のワクチン接種を終えているが、モンゴルでの1日当たりの感染者数は2,000人を超えている。この数日、地方での感染が拡大しており、感染者全体の3分の1はデルタ株である。世界中でこのデルタ株は新しい難題を引き起こしている。今回のパンデミックは、モンゴルの保健分野のインフラの弱点を浮き彫りにさせ、この分野の人材の育成、財政、業務活動において注視すべき、改善すべき課題を明らかにしてくれた。
経済分野
2021年7月、モンゴルのGDPは前年同期比で6.3%増加し、2020年のマイナス5.3%の低迷からV字回復を果たした。財政赤字はGDPの5.4%に相当し、前年の12%より大幅に減少した。世界中で物流コストが高騰し、モンゴルの対外貿易にも影響しているが、輸出の大部分を占める石炭、銅、鉄鉱石の価格は上昇しているので、政府歳入が増加した格好だ。
政府は、経済支援策の一環として、国家予算とは別に10兆トゥグルグを市場に供給するとし、現在までその3分の1が実行されている。財務大臣の発表によれば、そのうち2兆トゥグルグは雇用支援策として22万5,000人の雇用維持に費やされているという。政府は、モンゴル銀行に積み立てられた商業銀行からの資金を使って、ローン金利9%のうち6%を負担し、個人や企業に対して金利3%の超ソフトローンを交付させている。この6%は、2兆トゥグルグの予算に対して年間1,200億トゥグルグの負担となる。
政府は、今年上半期に企業や一般家庭の水道光熱費、ゴミ廃棄物収集料金として、6,500億トゥグルグをエルデネト鉱業株式会社に負担させた。また国民の年金担保ローンを帳消しにするため、9,640億トゥグルグをエルデネス・シルバー・リソース国有会社に負担させた。
政府は、人口の60%に対して72種類の福祉サービスを提供している。25万人が対象となる食糧クーポン、120万人の子どもには毎月10万トゥグルグの現金を給付している。2021年には、福祉手当と子どもの給付金に約2兆トゥグルグを充てる。国民全体の3分の1が貧困の状態である。
マネーサプライは増え続けている。2021年上半期のマネーサプライは、前年同期比で26%増え、27兆トゥグルグとなった。銀行預金は34%増え、1兆8,600億(うち1兆3,500億は個人資産)トゥグルグとなった。しかし、各銀行が交付した融資は1兆9,500億トゥグルグとなり、12.5%の増加と伸び悩んだ。これはビジネスの信頼度が低下したことを示している。預金金利は下がっているが、預金残高は増え続けている。今では国民の3分の1が預金を持っている。
証券市場は急拡大している(モンゴル証券取引所の時価総額は、今年初めには3兆トゥグルグだったが、7ヶ月間で4兆1,000億トゥグルグとなった)。住宅価格は1年間で11%上昇した(2021年7月、ウランバートル市内の住宅1㎡の価格は273万トゥグルグとなっている。Tenkhleg zuuchより)。住宅価格は、首都圏では7.8%も上昇している。
このように価値を生み出していないうちにマネーサプライが急増したため、モンゴルでは需要が供給を上回っている。モンゴルの保健および経済分野における戦いは、これが現状である。
モンゴルのパンデミック時の経済(パンデノミクス)は、長期価格上昇に入る前にあると言っても良い。モンゴルだけではなく、パンデミックと戦い、国民に現金給付を実施し、消費を促進した他国も同様な状況である。その理由は、価値を創造していない時の現金給付と需要促進は、必要最低限の商品やサービスの不足を生み、価格を上昇させる。インフレが、モンゴルのように経済構造が単純で、天然資源を採掘し、それを1国だけに輸出して外貨を獲得し、他にこれといった輸出品がない国にとってどれだけ強く影響するかを表している。これからもモンゴル経済は、鉱物価格の動き、隣国の態度に左右され続けるだろう。
そのため、経済を多様化し、一次産品だけでなく最終製品を生産し、世界市場で競争に出なければならない。モンゴル人は、経済の多様化について多くを話してきたが、実際に大きな変化を起こすことができずに今日まで至った。その主な理由は、政府による価格規制、的外れな福祉手当、はびこる腐敗、不正な土地取引、正義を確立できない司法制度が挙げられる。しかしより深刻なことは、組織として一層拡大し、誰も監視できなくなった政府行政の構造である。このことに対して社会は、具体的な措置を講じることを政府に期待している。
最近、検察官や将軍の事件やザミーン・ウデ税関所長が360億トゥグルグをオフショア口座に隠していた事件、狂犬病ワクチン詐欺事件など、政府の官僚クラスが関与した腐敗事件がいくつか発覚した。こういったことも、国民が政府は正しくあることを期待する要因となっている。
2021年8月26日
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